第78話

「何たる……今上帝め、哀れなヤツである」


キラキラと青光りする青月の光に、その瞳を輝かせて呟いた。


「……それも致し方あるまい?今上帝はあのものより、目下であるからな。年嵩の頼りになる己の後見で、さきの帝であり今も権力を保有する法皇であらば、大概のものはイチコロよ。そして何よりもあの今上帝の父だぞ、それは見栄えも良いし顔もいい。そんな相手に溺愛して育てられれば、思わぬという方が無理というものだ」


「さようであるか?年下とは悲しいものであるな……」


なんだか悲愴感が半端ない。我が身と置き換えてしまうのも仕方ない事だ、碧雅も雛である為出る処が出ていなくて、今上帝から相手にもされず、后妃という道を断たれてしまった。


「それより深刻なのが、今上帝がその事に気づいた事よ。女の勘は鋭いが、男とて真に思いを寄せる者ならば感ずるものだ……そしてかなりの確信を得ておる……よいか?男の辛い処は、妻が不貞を犯して子ができた場合、その子が何方の子か解らぬ事よ。たとえそれが父であろうと、嫉妬は致す疑心暗鬼にも陥る。それはこれから先の、我が子への疑心暗鬼へと変わる……よいか?この私とてそれは我慢がいかぬ。ならば高々の人間ならば尚の事よ……」


「さようであるか……ゆえに他のものに、救いを求めたのだなぁ?后妃を増やしたはその為か?」


「……であろう?どちらの子か分からぬ子を、産む可能性のある思い人より、確かに我が子を産んでくれる女の方が、俺なら安堵致すな」


「それでも好きなら?」


「中宮の子には決して、皇位を継がせはせぬ」


金鱗が真顔で碧雅に言い渡す。

と同時に、碧雅の顔面から赤みが引いた。


「それでは問題が起きよう?」


「当然起きる……後宮とは古より、そういった所だからな。尊き者の胤を頂き、を得ようとする者達が争い合う所だ……いいか碧雅……」


金鱗は真顔のまま碧雅に言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る