第77話

「青龍を抱けし御子様を頂くのに、お次兄様はそれは御苦労された」


「その甲斐あって、摂政一族を追いやれたのだ。青龍が処替えを致したからな。よいか?お気に入りの者が健在で、青龍が処替え致すは実に珍しい事だ。そなたのお母君と、長兄の朱の力の賜物よ。だがそこまでせねば、弟帝の苦労は報われなかったであろう……その為に朱は奮起致したのだからな……らんがこだわを続ける、愛というものは、それ程の力を発揮する」


 精王は碧雅を見つめると、盃に瓶子を傾けた。

 碧雅は促される様に盃を飲み干し、精王の酒を盃に受け入れる。


「宮中には小さい池が幾つか在る。そこは我らが造った物で、実の処は禁庭の池に通じておるのだ……宮中を護るが目的だが、我らの手のもの達が行き来できよう?そこで我が屋敷のもの達は、どっぷりと宮中の者達に傾倒したという訳だ」


 金鱗は豪快に笑って、碧雅から瓶子の酒を注ぎ入れられた。


「……そこのもの達が、非常に面白い話しを聞き込んで来た。真しやかに囁かれているただの流言だ……だがそういったものに、大きな真実が隠されている事もある」


 盃を口に持って行きながら、それは焦らす様に勿体ぶって言う。


「中宮は法皇とも、通じておるそうな……」


「はっ?中宮は法皇が好きなのか?」


「そこの処は、当の中宮しか解るまい?だが法皇とは、入内前からの間柄だそうな」


 碧雅は渋面を作って、金鱗を見つめた。

 考えてみれば鳥と魚だが、何ともいえず瞳の綺麗な種族だ。

 我が妻の銀麟とて欲目ではないが、それは目を惹く瞳を持つが。それに増したる美しさを持っている。


「精王よ。それは今上帝が、横恋慕致しておるという事か?」


「まっ、当初はそうとも言うかもしれんな……」


 すると碧雅は何とも言えずの、悲哀に満ちた表情を作った。


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