第76話

「そなた見かけによらず、悪知恵が働くな……」


 精王は呆れる様に言った。


「はん?何とでも申せ……しかしながら、今上帝とは意外と忙しくしておる者である」


「それは天子なのだから、致し方あるまい?」


「……であるが、石灰檀いしばいのだんという、白い漆喰を塗った処で火を焚いて、神宮の方角を拝み国家安泰を祈るのだ」


「それは当然であろう?彼処には天照が居るからな」


「……その後政務やら何やらで、意外と多忙だ」


「その間そなたは、如何致しておるのだ?女房共と楽しくしておるのか?」


 その意味ありげな言い方に、碧雅はちょっと冷たい視線に変わる。


「何を申すか?ずっとお側で侍っておる。があれと申せば取りに行き、があれと申せば差し出し……」


「なかなかしておるではないか?」


「……物凄くしておる。確かに後宮の后より共にいられる」


「ほう?どうせならば、も致さばよかろう?」


「……それが未だ未だ、今上帝の相手ではないのだ……」


 実に残念そうに肩を落として言う。その落胆ぶりを、隠さないから実に可愛い。


「……未だに雛と申しておるのか?」


だからな」


 胸を撫で下ろして、しみじみと言って盃に口をつける。


「まっ、には、長年の思い人がおるからな」


「中宮だろう?かなり有名な話しだ」


「……の様だな?朱の弟帝の様に后妃をおかず、中宮だけ……であろうと言わしめた程だからな……そんなだが、そうもいかず后妃が増えた……」


「それは中宮が、子を成せぬからであろう?天子の御子様を御誕生致すが中宮の役目よ、それが致せぬなら致し方ない事」


「……であるが、まだ三年にもならぬ。よいかそなたの次兄が今上帝の折など、三年以上であったぞ。だがアレは后妃を置かなかった。その後一人儲ければ、立て続けにポポン……だ。六人だか七人だか……」

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