釣殿の月見の酒

第75話

 夕刻まで空にあった雲は、精王の知己の風神が吹き飛ばしてくれた。持つべきものは知己というが、長の生を頂く神々には知己が多い。

 言ってはなんだが、馴れ合い感と言っていいかもしれない。


「結局雲の行き着く場所は、月が隠れる」


「おー道理であるな?」


 竜宮城の酒は、噂通りに洒落た感じで美味い。

 グビグビと底知れずに飲み干して行くが、案の定屋敷の主人はとっくに出来上がってしまって、傅く孤銀に抱えられて寝所に運ばれてしまった。


「そなたのお陰で、今上帝の側に仕えられた、なんと礼を言うたらよいか……」


「よいよい……朱明に手柄を立てさせたゆえ、礼というて池を綺麗にしてくれた。それと眷属神の一部が、孤族秘伝の酒をたんと差し入れてくれたが、眷属神の中でも、孤族のこさえる酒は一番上等なのだ」


「なんと?アヤツ私にはなぜくれぬ?」


「ぬしは何も致しておらぬではないか?」


「確かにそうであるが……」


 酒と聞いて未練を隠せない、瑞獣雛碧雅だ。


「……で?如何だ?宮仕えは?楽しいか?」


「おお、楽しいぞ。見よこの頭だが、人間の女房とやらが結ってくれるのだが、実に器用である。それに女房達は何でもできて、それは物凄い者達なのだ……それに優しくしてくれて、菓子などたんとくれる……」


「ほう?そなたに今上帝の側仕えなど、できぬと思いておったが……」


 盃を空けて、瓶子から酒を注ぎ入れながら言う。


「……であるのだが、何にしても女房共が凄いのだ。普段なら側に仕えておる身ゆえ、何でも解るゆえ私に指示してくれる、おかげで滞りなくできておる。第一古よりそうしておる様に思わせておるからな、私の役に世話をやくが当然と思わせておるのだ」


 凄いだろうと、言わんばかりの鼻高々だ。

 つまり自分の術……神力を自慢している。

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