第63話

「だが側近は違うぞ。夜以外をずっと共に過ごすのだ……。第一夜は寝てしまうからな、共にいる意味がない。だが側近は一日の大半を共と致すのだ、どちらが近しい仲であるか一目瞭然であろう?」


 今上帝の御言葉を聞いた、朱明が吹き出した。

 それを、今上帝と雛は一瞥して見つめ合う。


「確かに……それに致そう」


「いやいやいや……だから、そう簡単には参りませぬ。主上のお側に侍るは、それなりの者でなくばなりませぬ。出自賤しからず、身元賤しからず 後見賤しからず……」


「はー?何を申すか?私を誰と心得る?先の先の先……上皇を父に持ち、瑞獣鸞ずいじゅうらん族の頂点を極め、大神様の覚えめでたき女神であるお妃を母に持ち、大神様よりご寵愛の神の長兄を兄に持ち、この国の聖代視される天子を次兄に持つ、瑞獣の私に対し何と申すか?」


 一気に捲し立てられて、伊織は固唾を飲んで固まった。


「尊くあれども、賤しくは無いわ」


「……であるゆえ、如何か致せ」


「は?」


 伊織は、今上帝の投げやりな言葉に我に返った。


「ですが、いろいろと手続きというものがございます。宮中に上がるにはそれなりの、諸々がいろいろと……」


「……分かった。ならばそれらを教えよ。私がゴニョゴニョと致すゆえ」


「……ゴニョゴニョ?」


 伊織と朱明が異口同音で聞く。


「わ、私とて瑞獣である、まだまだ雛ではあるが、人間の高々の諸々は、チョチョイとどうにかできるのだ」


「チョチョイとですか?……と申されますより、まだまだ雛と申されますが、充分に大人と存じますが?」


伊織が見た通りを言う。


「それが大人ではないのだ……」


 雛は恥じ入る様に、今上帝を見つめて言った。


「……ここがな……痩躯であるらしいのだ……確かにお母君様は、かなりの御豊満ではある……ゆえに、私とて先々には期待したいが、どうやらそれまで、コヤツが生きておれぬらしいのだ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る