第61話

「はて?そうであったか?……ならば、言うが通りであるな……」


 今上帝は伊織が呆れる程の雛の態度に、満面の笑みを浮かべて答えておられる。


「……で、そなたはどちらがよいか?」


 雛は、縋る様に今上帝に聞いた。


「そなたが大人になったら答えてやる」


 すると雛はプーと頰を膨らませて、がっくりと項垂れた。


「……それまでには、そなたが生きておらぬのだろう?」


「百年も後ならな」


 今上帝があっさりと言うので、伊織は雛をガン見する。


「陰陽師よ、私を早く大人と致す術を知らぬか?」


 雛は駄々をこねる様に朱明に縋る。


「……と申されましても……???」


「……であるな……私が分からぬものを、高々のそなたが知る術もない……」


 雛はがっくりと、肩を落としてしまった。


「伊織、御簾を全て上げて広々とせよ」


 今上帝の御言葉に、伊織は早々に家人に言付け御簾を巻き上げさせ、酒肴の支度をさせた。



 何せ瑞獣は酒豪で酒好きだ。

 まぁ、賢くもこの国の天子様の御前であるにも関わらず、飲むは飲むは……。大の大人の今上帝と伊織と朱明が、まるで敵わぬ程で、弱い朱明などヤバい程に酔いが回り始めてしまったから、前の金鱗との酒宴の事もあるので、さすがに恐れ大過ぎる今上帝様の御前だから、自主的にセーブを心がけている。


「しかしながら陰陽師よ、よくぞ雛を見つけてくれたな」


 今上帝はそれは嬉しそうに、少し頰を染められて言われた。


「はっ、恐悦至極にございます」


 直答などお許し頂ける身分ではないので、それしか言葉が出て来ない。

 余程嬉しいとお見受けして、今上帝は幾度も朱明にお言葉を下さるから


 ……生涯の家宝としよう……


 と、二度と無い状況に感じ入る朱明である。


「おっ?今上帝よ。そんなに私に会いたかったか?」


 もはや手酌の雛は、耳聡く聞いて今上帝に視線を送った。

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