第41話

 未だ未だ小さな朱麗はそのうち内裏を出て、どこかの後院とかいう処に所替えをしてしまったが、幼子の癖に神力は半端のないもので、しょっ中此処に遊びに来ていた。考えてみれば奴には人間の友がいなく、大神の神使とか金鱗の様な精霊としか、遊び相手がいなかったのかもしれない。

 しかし成人となり暫くした頃、に情人というものができ、ちょっと変わり者の陰陽師とかいう友ができた。

 そして情人がみまかった後、あれも共に暮らす為にに行くというので、あの変わり者の友人の家の池を護る事を頼まれた。

 まっ、あの頃はちょっと妻といろいろあったので、気安く引き受けてしまい、案外居心地が良かったものだから、ついつい居着いてしまった。

 まぁそれも当然で、の池も神山の神泉からの湧き水を拝借しているのだ。

 ……という事で、金鱗は久々という感じの天子の池にやって来た。


「お戻りなさりまし」


「お戻りなさりまし」


 池の中に身を沈めるや否や、池の精達の可憐な声が聞こえた。

 水面は淀んでいたが、沈むにつれて徐々に水は清らかに澄んでくる。

 底に近づくにつれて、神気も高く強くなる。

 宮殿の脇に、神泉の水が湧き出ているからだ。


「これは、お戻りなさりませ精王様」


 それは美しい我が妻が、相も変わらずの美貌を誇って迎えた。


「もはやわたくしの事など、お忘れになられたものと思うておりましたわ」


 美しいが少ーし棘のある物言いをする、それは気の強い妻を見つめる。


「何を申すか?私がそなたを、忘れるわけがなかろう?」


「さて?それは如何なもので、ございましょう?此度もここまでの合間に聞こえます、可憐で可愛げな精達の声音に、貴方様の御顔がこれこの通り……」


 氷でできた鏡をかざして、意味ありげに睨め付けて言う。




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