第39話

「それでそなたは雛なのか?」


「おうよ。この貧弱なる雛の痩躯では、今上帝は厭だと申すのだ」


「ほう?」


 金鱗は面白くなってしまって、満面に笑みを浮かべる。


「女体が良いと申すのだ、それもの女体と、それは物凄ーくの力の入れ様であった……」


 碧雅は盃を飲み干して、再び瓶子から注ぎ入れてまた飲み干した。


「それは苦痛であったな……」


「……である……」


 チラリと見ると、微かに月の光を受けて瞳が光って見える。


「ならば、女人となりて今上帝の元に参ればよかろうに、如何してその様な格好をしておるのだ?」


「金鱗よ、聞いておらなんだのか?私は未だ未だ雛なのだ。嘴が黄色いのだ。そして痩躯なのだ。アヤツの望む膨よかで嫋やかなる、丸みのある女体にはなれぬのだ……」


「おお!そうか……」


 金鱗は可笑しくて仕方なくて、思わず吹き出して言った。


「何が可笑しいか?実に不埒な奴である……」


 碧雅がプリプリとしながらも、伏せ目がちにすると、その長くて邪魔そうな睫毛が濡れている。


「わかったわかった……許せ。その代わりと言うては何だが、力にならぬ訳でもないぞ……」


 金鱗の言葉に、碧雅は潤んだ瞳を向けた。


「大内裏の傍には大池が在るからな……のもの達はお喋りだからな……いろいろと面白い事が聞けるぞ」


「おっ?竜が居るとか言うヤツか?」


「竜は居る訳が無い……だがあそこは神泉の一部の水が湧き出ているからな、尊いもの達が住み移って都を護っておる……久々に遊行致してもよいな」


「おっ!ならば私も連れて行け……」


「今度な……実はあそこには妻が居るのだ……」


 金鱗は少しはにかむ様に言ったので、碧雅は素直に頷いた。


「そうか……そなた妻がおるのか……はぁ……妻はやはりの雌なのであろうなぁ……」


 かなり拘っている様で、項垂れる様に呟いた。

 その様子が実に可愛くて、金鱗は久々に妻を思ってはにかみの笑みを浮かべた。

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