第38話
「はぁ……私も今上帝のその望む物を知りたい……」
瑞獣碧雅は、天空の月を仰ぎ見て溜息を吐いた。
「……………」
金鱗は盃を手に、碧雅を凝視する。
「私は母君様の命により、今上帝の側に仕える役を仰せつかった……ゆえに、私も母君様に習い后妃となろうと試みた」
碧雅は真顔で、金鱗に視線を向ける。
「……だが、私は今上帝の眼鏡にはかなわなんだ……」
落胆著しく、碧雅は項垂れる。
「何故だ?」
「私は今上帝が決めねば、雌雄の区別が無いのだ」
「ほう?」
金鱗は、さも面白い、という顔を見せる。
「ゆえに后妃にはなれぬそうだ……」
「まっ、そうであろうなぁ……后妃とは、女人が今上帝に仕えるものだ」
金鱗は盃を飲み干すと、その清らかで愛らしい、碧雅の瞳を見つめて苦笑する。
「実に無念である……未だ未だ雛であるが、今まで雌雄の区別が無くとも、何の差し障りも無く暮らしておったに、ここに来てこの様な苦痛を味わうとは……」
金鱗は瓶子から手酌で盃に酒を注ぎ込みながら、再びの碧雅の違和感ある発言に凝視する。
「そなた雛なのか?」
「おうよ……」
「誰がその様に?」
「お母君様に決まっておろう……我が父君様はかつての現世の天子であるし、次兄君様もである。長兄君様とて現世でご誕生なされ、次兄君様の寿命の内は現世でお過ごしであられた」
「おおそうであったなぁ……」
金鱗は懐かしげに頷いた。長兄君を思い出しているのだろう。
「……私は彼方で誕生した瑞獣であるが、父君様が天に昇り瑞獣にして女神の母君様と、母君様の寿命の内を共に致すを許された、それは稀有なるお方である。そのお方の胤の私が彼方で誕生致したとはいえ、一般の瑞獣とは違う成長をしておるらしいのは致し方ない事である」
「ほう……なるほど……」
金鱗は大きく頷いて、再び盃を飲み干した。
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