第37話
すると朱明の腰元に括られた根付が、フルフルと震えた。
「……そんなに心配であるならば、遠慮などせずに姿を見せよ」
瑞獣様が盃を片手に、根付に向かって言い放った。
「根付?ははは……孤銀か?お許しが出たぞ、姿を見せろ」
もはやベロベロ状態の朱明が、泉殿にひっくり返って言った。
すると根付の銀の狐の孤銀が、朱明の傍でひれ伏して姿を現した。
「大神様ご寵愛のお妃様の御子様であられ、神であられる長兄君様をお持ちの瑞獣様と魚の精王様の身前に、主人の分身でしかない我が身が侍りまする事を、お許しくださり恐悦至極でございます」
孤銀は至極真顔で、ひれ伏している。
「そなた眷属神の分身であるな?それもかなりのものよ。それ程のものなれば、そなたが九尾になった折には、たかだかの分身とは致しておくまい。我が身を恥じずに邁進致せ」
金鱗はクィっと、盃を空けると言った。
「有り難きお言葉でございます」
再び深々と頭を垂れた。
「そなたの護りと致す者が、出来上がった様だ。介抱致すがよいぞ」
「有り難きお言葉でございます。我が主人は今日、上の者より難題を仰せつかり、その為酔いが早く回ったのでございましょう。お許しくださいませ」
「なんと?陰陽師は、難題を突きつけられたか?如何様な事であろうか?」
「主上様が
「なんと主上か?」
主上の望む物と聞いて、瑞獣様が身を乗り出した。
「はい。しかしながら、何をお望みか……をまず探らねばならず、いささか難儀な事にございます」
「さようか?宮仕えも難儀であるな……」
実は魚の精の王である金鱗は、さも気の毒そうな顔を作って言った。
「さっ、朱明様。寝所に参りますぞ」
孤銀は泉殿で、瓶子を交わし合う二人に会釈を送って、朱明を抱え立たせて泉殿を後にした。
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