第36話

「そなた陰陽師の子孫か?」


 酔いが回り始めた朱明に、酒の入った瓶子を傾けながら金鱗が問う。


「陰陽師?正二位の事か?」


「正二位?なんだそれは?」


「あはは、魚の精では知らなくて当然だな。官位だ。人間にはあるのだ……」


「官位?」


「ああ、どうやら階級的な物の様だ」


 雛の癖に酒豪らしき瑞獣様は、怪訝な金鱗に説明する。


「私の次兄あに君様が、かつての天子であったからな。これが頂点だ……我らの大神様に当たる」


「ほう?」


「その下に大臣とかなんとかといった、いろいろと在る。それが八百万の神々様だろう……」


「ほうほう?」


 金鱗は興味津々だ。


「その下に陰陽師とかの官使がおって……たぶんそれらが瑞獣とか神使とか精とかであろう……」


「なるほど」


「その中でも神を許されしものもおれば、そうでないものもおるし。主もおれば長もおろう?そういった感じだろう」


「ふーん?……では、その正二位とかになったのだな」


「たぶんなぁ……次兄あに君様を手助けした者であるらしい」


「……であろうな?朱は弟帝以外では、その者を頼りとしておったゆえに、が亡くなるに当たり、最愛の弟帝が授けたこの屋敷を俺に託したのだからな。まっ、確かに此処は朱にとっても、大事な場所であったからな……。その屋敷を大切にして参ったのだ、の子孫達はなかなか良い者達である」


「さようか?」


「おうよ。時代の流れなどに流されず、朱の愛したままこうして在るのだからな、ゆえに俺もこうして綺麗でいられる」


「なるほど……確かに綺麗だ」


「ふん。俺は魚の中でも、唯一無二の存在だからな」


「己で言うてテレも無いのか?」


 瑞獣様が呆れた様に言った時に


「いや〜実に金鱗様は綺麗だ。うんうん……」


 酔いが回った朱明が、ろれつも回らずに繰り返す。

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