魚精王金鱗

第35話

 さてさてなんの因果か、泉殿で月を肴に酒宴となってしまった。

 金鱗きんりんも、どうやらの様だ。

 瑞獣様と金鱗の話しを聞いている限り、瑞獣様の長兄あに君様は現世で親王様とおなりであったが、余りのお美しさと不思議なお力をお持ちゆえに、世間と隔ててお育ちになられたようで、つまり余り人間と関わりを持たずに過ごされたから、そのお相手になるもの達は、……の精というべきもの達が大半だったので、魚の精の金鱗も幼き親王様の遊び相手であったらしい。しかしながら、そういったとしか交流のなかった、瑞獣様の長兄あに君様というお方に、物凄く興味がそそられてしまうのは仕方のない事だと思う。だって、目の前に不思議なが、居てしまうのだから……。

 ……とか感心している場合ではない。

 なんと朱明は初めて知ったのだが、瑞獣とか精とかといった不思議なもの達って、驚く程に酒に強い

 未だ未だ嘴の黄色い雛と豪語している瑞獣様だが、飲むは飲むは……それに輪を掛けて飲むのが金鱗だ。魚の癖に月を肴に酒を飲むとは……。

 今日陰陽助様に、無理くり面倒な案件を押し付けられた朱明は、実はこんな事をしている暇などないのだ。

 どうにかして主上様の〝お望み〟のものを、探し当てねばならぬというのに……。満月ではないが、それは綺麗な月を愛でながら、酒を飲んでいる暇があったら、難題の解決方法を考えなくてはならないのだ。

 我が家に伝わる、諸々の文献などを紐解いて……。

 ……なのに、世にも珍しいというよりも、存在自体があり得ない瑞獣と魚の精と、酒を酌み交わしているなんて……。


 ……さてさてどうしたものか……


 なんて思いながらも、なんだか楽しくなって来ていたりするのだから困りものだ。


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