第31話

「おお、我が長兄あに君様などは、名に相応しく朱色の狩衣姿がお好みだ。なんでも、現世にご誕生であったからな……次兄あに君様は、現世では天子であられたからな、それは色々とお召しであられるが、長兄君様がお好みゆえ狩衣か直衣でお過ごしだが、狩衣の方が動きやすいと申されておいでだ」


「瑞獣様はあちらでは?」


「うーん?お母君様が細長という、うら若き乙女が召す物をお好みなので、それを着たり……おお!長兄君様の狩衣も着ておる……」


「……つまり、どちらもお召しなのですね?でも……」


 朱明が、気を使った事を後悔して言った。

 確かに女人でない方が、朱明としても有り難い、母の手前も説明するにしても……。


「……ならば着替えをすると致すか……」


 瑞獣様はそう言うと、朱明の面前である事も気に留める事なく、そう言って立ち上がった。


「えっ?ちょっとお待ちください……さすがに雛と申されても、では立派な……」


 あたふたとしながらも、其処は男の朱明でもある。

 天子様がご希望になれば、それは見事な姫様におなりの瑞獣様の着替えを、垣間見たい好奇心も無くはない。

 下心を覗かせながらも、慌てふためいていると……


「何をグチグチ申しておる」


 一瞬にして碧色の狩衣姿に、変身していた。


「えっ?えー??」


 残念でもあり、その凄技に驚嘆する。


「我が名は碧雅と申すからな、良い色であろう?長兄君様は朱色の狩衣を好まれておられるゆえ、私も真似てみた」


「……しかしながら、目にも留まらぬ速さでございますな……」


「着替えか?そんなのチョチョいである。この様な事に手間取っておったら、瑞獣の名折れである……おっ?もしやそなた……今上帝が望めば姫だとか、近しい男しか姿を見せてはならぬとか宣っておったが、事を期待しておったな?」

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