第23話

「どんなにお気に召す様に、姫君様を育てる事が可能であろうと、性別のみは変えられませぬ。それは神の聖域……神にしか触れられぬ域でございます。その域を御残しになる意図は、如何様と致しましてもかのお方に、お捧げになられるという意でございます」


 朱明がきっぱりと言い切った。と同時に瑞獣様が関心した様に、尊敬の意を浮かべた視線を向けた。


「そなた見た目と違い、賢いのだな」


 朱明は関心しきりの瑞獣様を見て、笑ってしまった。

 確かに幼少の頃から、書物の暗記とかの方が得意だ。

 鬼や魑魅魍魎ちみもうりょうの調伏みたいなものより……。否小物ならまだしも、そういった大物との対峙は、苦手というより勝てる気がしない。

 かの有名人や出世しまくった祖先が、いる身でありながら……。

 それを見透かされた様に思えて、思わず朱明は失笑してしまった。


「……さようである……お母君様のお言付けは絶対である。が誕生致さぬ内より言われて育ったのだ……私はの為に存在致すのだ」


「それを理不尽と、お思いになりませぬか?」


「お母君様は絶大よ……お長兄あに君様もそう申された。天意は天が意を通して先を見る……ゆえに私は存在するのだ。お母君様の意は天意にちかしい……ゆえに疑問を持った事は無い。私の任はの望む処にかしずく事よ」


 朱明は瑞獣様の母君様に対する絶対なる服従を思い、それは違うと思い当たった。

 絶対なる服従ではなく、絶大なる信頼なのだ。

 それも我ら人間が抱く、神に対する畏敬に似たものだ。

 そしてそれ程迄の瑞獣お妃様が、一体何を思って我が子をこうやって育て、今上帝に捧げるのかに興味が湧く。

 この中津國なかつくには、異性同性の恋愛差別は皆無に等しいから、お妃様はここまで考慮されたのだろうが、平安なる治世を維持しきれないであろう今上帝に、それだけの意義があるのだろうか?と思い、それだけのを持つかもしれない今上帝に興味が湧いた。

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