第22話

「私はお長兄あに君様とは違い誕生致した折に、大神様からのご宣旨は頂いでおらぬゆえ、神ではないのだ。ゆえに相手の意に合わせて、変える事はままならぬ。ゆえにお母君様は、今上帝が望む方になれ、と未だ雌雄の区別をおつけになられておらぬ……」


「お待ちくださいませ。今し方現在し方、貴方様は雌雄の区別がおありにならぬので?」


「おうよ。……とて、何も不自由は致しておらぬゆえ、に参ってこの様に、苦痛を味わうとは思わなんだ……」


「……と申されますより、貴方様は今上帝様の御望みに、従われる身なのでございますか?」


「おうよ。その様にお母君様に、言われて育って参ったのだ……」


「如何してでございます?」


「はて?」


 瑞獣様は、たぶんその様な事を考えた事がなかったのだろう、吃驚した様子を作って見せた。


「考えた事も無かった事である。今まで不自由はなかったし、が言う方に致せば良いと思うておったからな」


 朱明はジッと、瑞獣様を凝視した。


「……その意味を、お分かりでございますか?」


「……意味?雌雄を決める事であるか?」


「……ではなく、今上帝様に御決め頂く真意でございます」


 真顔を作る朱明に瑞獣様は、意図を知り得ようもない表情を浮かべている。


「瑞獣様。此処現世では、高貴なお方の姫君様方は、大概が高貴なお方の為に成長なさります。例えば天子様そしてその御子様……東宮様……後の天子様でございます。そのお方の后となる為に修練され、見目麗しい女人となりて入内するのです」


 瑞獣様は知り得ようもない、人間界のしきたりに興味津々だ。


「その為にありとあらゆる、ご教養を身につけられます。その方のみの為に……」


 朱明は食い入る様に見つめる、瑞獣様を直視した。


「人間もできうるならば、かのお方が望むものと致しとうございます」

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