第17話

 だがどうだろう、この雛瑞獣の白肌を面前としてしまったら、先程まで酔っていた女体が色褪せてしまう。

 未だ幼いと言い張る、その隠された白肌を想像させられて、今上帝は雛瑞獣に釘付けとなっている。

 見れば見る程に、その姿は美しい。

 真冬に一面を純白に染めた雪景色の中の、たった一輪の紅梅を思わせる唇も、長く微かに揺れキラキラと光を得て輝く黒髪も、強力なる母の驚異を語る時に、暫し伏せる瞳に覆い被さるほどの黒々とした睫毛に、眉月を思い浮かばせる形の良い眉、何から何までがこの世の物とは思えぬ美しさだ。


「……ゆえに今上帝よ……」


 今上帝は雛瑞獣が名を呼んだ様で、その食い入る様に見つめた視線を動かした。


「……ゆえに、そなたの側に置いてくれるのだな?」


「……如何様にして置けと?」


 今上帝が気もそぞろに、視線を泳がして聞いたので


「……そなた!シカと聞いておらなんだな?」


 と雛瑞獣は、かなりのご立腹を露わにする。

 その仕草が可憐で可愛すぎる。

 思わず今上帝は、笑みを浮かべてしまった。


「そ、そなた私の言う事も聞かず、鼻で笑ったな?なんたる何たる不遜であろうか……」


 ワナワナと白く細いおよびを震わせるが、それすらも愛おしく思える。


「おう……分かった分かった……そう震えて憤るな。如何して欲しいのだ、今一度申してみよ」


「ゆえに、私を母君様同様に后妃と致せ……と申したのだ」


「はっ?」


 今上帝は呆気に取られて、愛らしく思い始めた雛瑞獣を直視した。


「ゆえに……」


「……いや雛瑞獣ひなずいじゅうよ。そなた后妃と云うものを、シカと存じて申しておるのか?」


「おう。一番そなたの側に居れる者で、そなたをられる者である」


「……………」


 今上帝は最初から感じてはいたが、確かに自分の判断が誤りでない事を確信した。


 ……こやつは、イタイ程に間がぬけている……




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