第15話

 今上帝は呆れる様に、瑞獣を一瞥する。

 先程から言っている事が、埒が明かない事ばかりだ。

 さっぱり今上帝には、理解ができない。

 かなり今上帝を惹きつける美貌があるものの、らしい。瑞獣とはこういうものか?と憐れみの視線を送る。


「……ならば、年頃となりて参れ……私は生きておらぬだろうがな」


 御単衣のみの御姿で、御帳台に歩を進め吐き捨てられる。


「……時を戻せ……興ざめである」


 帳に手を掛けた処で、今上帝は再び瑞獣へ視線を向ける。

 かなりの美貌だ。それと同様なくらいの、間抜けた感が愛らしくも見える。

 嘴が黄色いだの雛だと言うのも、あながち嘘ではなさそうだ。


「……時を戻せ……」


「時を戻せと?わ、私がおるのにか?」


 雛瑞獣は、真っ赤な顔をそのままに宣った。

 が今上帝の意にかなった。否、ツボを得てしまった。


「そなたは雛ゆえ、大人の致す事をその場で見て教えと致せ」


「ば、馬鹿を申すな。そ、その様な破廉恥な……」


 今上帝は帳を持った手を離して、その間抜け感が可愛くなって来た雛瑞獣を、嘲笑を隠せずに見つめる。


「破廉恥?そなた雛の癖に、おマセであるな?」


 すると面白い程に、赤い顔をもっと赤くする。

 頰も耳も首筋もボッという音を立てて点火して、燃え盛っている様だ。


「は、母君様が……余りにもの長兄あに君様の無知さ加減に呆れられ、 私には早くからのご教育を下されたのだ」


「ほう?瑞獣とは人間と同じ事を致すのか?」


「はて?大して変わらぬようだが………は、お教えの通りであったぞ」


 雛瑞獣は口元に指を置いて言った。

 その仕草が可憐で、今度は今上帝の方が赤面を覚えた。


「分かった……とにかく時を戻せ……」


 だが雛瑞獣は御帳台の中を気にして、時を戻す様子を見せない。


「……ああ、私とて幼児に、大人のを見せる気など無い。どうせ興ざめも致したし、女を寝かせたまま時を戻せ」

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