第14話

 今上帝は、微かに目を開けた。

 瑞獣は触れんばかりに唇を近づけ、今上帝の顎を引いて少しばかり唇を開けさせて、スウーと息を吸いとっている。

 その顔容が余りに美しくて、今上帝は飽きる事無く見惚れる。


「済んだぞ」


 輝く程に美しく微笑む瑞獣に、今上帝は我を忘れて再び唇を近づけていく。

 瑞獣はやはり吃驚するが、今度は突き飛ばす事なく、静かにおとなしく受け入れた。

 すると徐々に今上帝は高揚し、貪る様にその桃花の如き可憐な唇を吸いやった。

 瑞獣は我を忘れて、為されるがままに溺れて行くー。

 そして今上帝の御手が、瑞獣の胸元に触れに瞬間


「…………」


 今上帝は身を離して、瑞獣を覗き込んだ。


「そなた男なのか?」


「はて?男?」


「女体ではなかろう?」


「はて?私は未だ幼いゆえ……男?女体?瑞獣は瑞獣である……ああ、雄雌の意であるか?ならば……」


 瑞獣はそのまま真っ赤になって、今上帝を見つめた。


「そなたはどちらが好みだ?」


「は?好み?瑞獣のか?」


「おお、そうそう雄が良いか雌が良いか?雄は〝らん〟と呼ばれ雌は〝和〟と呼ばれるらしいが、我らは大神様に仕える身ゆえ〝鸞〟と大神様より名を賜っている……ゆえに鸞だ。鸞だからという事で、雄ではないぞ」


「いや違う……そうでは無くて、そなたの躰が男……雄なのだろう?」


「はて?そこの処は……」


 瑞獣は増して真っ赤になって


「私は未だ幼いゆえ、どちらとも言えぬのだ」


「は?」


 今上帝は、訳の分からない事を言う瑞獣を、呆れた様に一瞥する。


「それだけ育っておれば、十分であろう?そなた幾つであるのだ?」


「図体はあるのだが、未だ百と少しである。未だ嘴が黄色である雛である。それにそなたが決めねば、雌雄は決まらぬ」


 恥らう様に言う瑞獣を見つめて、今上帝は唖然とするしか術を持たない。


「……ならば、幾つにならば女体となるのだ?」


「幾つ?はて?幾つなのであろうか?二百か三百か?」

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