第13話

「はて?その瑞獣が何の用向きであろうか?このご時世に瑞兆か?それとも平安の治世の遣いか?」


「ば、馬鹿を申すな。瑞兆などなり得ようはずもない、そなたにはしかあり得ぬわ」


 すると今上帝は、顔容を歪めて瑞獣を睨め付けられた。


「何と申した?」


「そなたには凶の卦しか有りはせぬ」


「……ならば、なぜ此処にになられた?


 今上帝は瑞獣の、美しくしなやかな腕を掴んで睨め付ける。


「私は、そなたの側に仕えよ、と母君様から任を得て参ったのだ」


「何ゆえに?」


「さ、さあ?……それを教えては下されぬのだ……ただ、そなたの側に在りてそなたを……」


 すると今上帝は、スルリと瑞獣の腰を抱いて引き寄せられた。


「私をどうされよと?」


「そ、そなたをだなぁ……」


 人間に触れられて動揺を隠せぬ瑞獣の唇を、一瞬にして捕らえてしまわれた。

 すると瑞獣は吃驚して今上帝の躰を押しやると、ポンと今上帝は突き飛ばされて床に身を沈めた。


真実まことに瑞獣なのか?それともあやかしか?物の怪か?」


 身を叩きつけられた今上帝は、おもむろに身をもたげて、腰を落としたまま見上げて問う。


「はぁ?こ、こんなに美しい、物の怪がおるはずがなかろう?」


「自ら申すとは……」


 嘲笑う様に言うが、その声には力が無い。


「この宮中は物の怪、悪霊の巣窟。 如何様に美しくとも、まやかしかもしれぬ」


「た、確かに……そなたも呪詛や怨念に塗れておるな」


 瑞獣はジッと見入って近づくと、今上帝を抱きすくめて立ち上がらせた。

 そしてその桃花の様な唇を近づけたから、今上帝は静かに御瞳を閉じられた。


「………………」


 だが、待っても待っても今上帝は、瑞獣の唇を触れて確かめる事が御できになれず、ただ微かに甘い息が口元にかかるだけだ……。


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