今上帝と瑞獣

第12話

 天を焦がす程の火の玉が、禁中に御坐す天子様のご寝所の在る、清涼殿目がけて落ちて行った。

 天子をお守りする滝口の武者や、近衛府の者達が、その輝かしい光を覚えているのは、ご寝所の中に吸い込まれる様に、輝きの玉が消えるまでだ。その後の記憶は誰も持っていない。


 嫋やかな白肌の女は、その美しいと自慢の長い黒髪を、まだまだ若い今上帝の躰に巻きつける程に身をくねらせて善がり声を上げた。

 ……とその瞬間、今上帝が女の躰に身を委ねる以前に、女の動きが止まった。


「全く……」


 背後で嫌悪の念を送りながら、誰かが吐き捨てた。


「誰ぞ?」


 振り向くと、それは見た事も無い程の美しい女が、嫌悪感いっぱいに漂わせて立っている。

 五襲のうちぎ濃色こきいろの袴をはいて、その腰には七色に輝く見た事も無い紋様を浮かべたを巻き、それは長く垂れ引いて魅力的だ。


「はっ……お父君様もお兄君様も、それはそれは一途なお方……なんとたかがの合間にこの様に、この国の天子が成り果てるとは……」


「はっ?何をグタグタと……そなたは誰ぞ?」


瑞獣ずいじゅうらんである」


「瑞獣の鸞?かのお方のか?」


 今上帝は組み敷いていた女の躰から身を引くと、御単衣を纏って御帳台を出て美しい瑞獣に見惚れられた。


「は……お母君様はかなりのお方と存じておったが、これ程までとは……」


 瑞獣はそう言うと、今上帝の御顔容をガン見する。


「確かに我が次兄あに君様の面影があるやもしれぬが……やはり全く似ても似つかぬな」


 嫌悪を露わに言い放った。


「はて?誰に似ても似つかぬのだ?」


 今上帝も負けじと言い放つ。


「先の先の先の……上皇と天子である」


「はて?先の先の先の……上皇と天子など、御顔容を知る術もあるまい?」


「ふん。今し方申したであろう?私は瑞獣なのだ、分からぬはずはなかろう?」

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