第11話

 静寂が戻った寝所で、朱明はぼんやりと薄暗がりを見つめていると、ボッと燭台を灯されて視線を向けた。

 そこには、先程まで根付だった孤銀が畏まっていた。


「瑞獣様がお越しであった」


「存じております。私はお目もじを、お許しくださりませんでした」


「……そうなのか?」


「私は主人の一部ゆえ……」


「そうなのか?」


 朱明は妖狐の孤銀を見つめた。

 幼い頃から護ってくれる孤銀は根付で、妖狐と化して護ってくれるが、それは主人の一部だと言う。たぶんかなり力のある妖狐なのだろう……としか、朱明には想像が付かないが、ずっと代々直系の嫡子に当てがわれる物だ。

 そして朱の痣と同様に朱明以外の当主達は、その存在すら知らないで終わっただ。


 ……鬼達が動き始めたからか?いろんな物達が動き始めたからか?……

 朱明の、いろんな物が動き始めている。

 何が起きるのだろうか?

 鬼退治や魑魅魍魎退治はできる気がしない。喰われる事だけはなさそうだが、そんな任を与えられたらちょと厭だ……そう思う事は、陰陽寮に幅を効かせる家系の一族の、何故だかその筆頭株に躍り出ている血筋の朱明が、決して許される事ではない。

 朱の痣を頂き、銀製の狐の根付を持っていれば尚更の事だ。


「!」


 朱明は御帳台を出ると、孤銀に蔀戸しとみどを上げさせた。

 天を真っ赤に照らしながら、煌々と光り輝く玉が禁中の方向に、真っ赤な尾を残して飛んで行った。


「あれは?」


「誰だと思う?」


 朱明は大きな嘆息を吐いて、孤銀を見つめて聞いた。


「尊きお方であろうかと……」


 ……やっぱり間抜けな瑞獣様だ……


 と、朱明はうんざり感を露わにして、未だに残る赤い尾を見つめた。


 ……これから一体何が起きるのだろう……あの方は何の瑞獣様なのだろう……

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