第9話

 矢継ぎ早に朱明は言い放った。


「ほう?さようであったのか?」


 すると影は、冷静に納得して言った。


「お母君様もお父君様も、その様な馴れ初めを教えてはくだされぬゆえ、私は全くもって存じ得ずにおったが、なんと陰陽師から詳しく聞かされようとは……」


 朱明は感じ入っている影を見つめたが、そろそろ薄暗がりにも目が慣れてきたので、微かに影の容姿が見て取れる。

 ボヤっと浮かぶその様子は、それは高貴で美しい。

 ただちょっと間抜けた感が否めないのは、今の口上を聞いてなどと言って感じ入っているからかもしれない。


「ならば話しは早い、とっとと陰陽寮から私を派遣せよ」


「は、派遣?……と申されましても……瑞獣が現れる謂れが、現時点でございませぬゆえ……」


「はぁ?なんと?現に私は此処におるではないか?」


「……が問題かと……」


「へっ?」


 朱明はやっぱり、間抜けている瑞獣を見つめた。


「……兆し無き現在いま、お越しでございますし……瑞獣ならばやはり、天子様の御元に現れるべき存在ものかと……」


「……そうなのか?私はまだ幼いゆえ、そこの処がよう解らぬのだ……なのに、お母君様はお優しいお父君様が、お兄君様の元にご遊行ゆえに何も教えては下されずに、私に任をお与えになられてほっぽり出されたのだ~」


 うお〜んと声を上げて泣いた。


 ……いやいや、そう言われても……えっ?ちょっと待てよ?……


「いや、ちょっと待てよ君……いやお前。先の伝説のお妃様をお母君様とか言っているが、二百年前のお方だぞ?なんでお前がその子供となれるんだ?」


 さすがの朱明も、根付の孤銀が動きはしないが、身構えて瑞獣擬きを睨め付けた。


「はぁ?そ、それは……お父君様とお母君様が、今でもそれは相思相愛だからだろう?」


「へっ?」


 朱明は呆気に取られて、丸くなった目を瑞獣に向けている。

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