第8話

「……でははどちら様で?」


「私か?」


 朱明は一瞬身構えた。

 この後相手が本性を曝け出してくる事が多いが、意外と本性がグロかったりする事が多い。なにせ怨霊とか幽霊だったらその死んだ時の姿とか、もっと経過した姿とか……魔物だったら大体グロいし物の怪とか妖も、かなりインパクトのある様相でまみえる事が常だ。はっきり言い切れるのは、異界の物達はかなり異形だという事だ。


「私は瑞獣のらんである」


「えっ?」


 一瞬互いの間の空気が止まった。

 互いが思うリアクションを取らなかったから、二人は呆気に取られて固まったからだ。


 ……ランランラン???ラン、らん、鸞?……


「ええ〜?あの瑞獣の?あの伝説のお妃様の?あの……」


 朱明がどうやら相手の意図するリアクションを取ったらしい、相手は満足している様子を醸し出した。


「あーしかしだ、瑞獣は瑞兆……はっ?この時代にか?鬼や魑魅魍魎が息吹始めている現在いま?……の筈はあり得ない〜」


 暗闇ながら試行錯誤して、百面相を繰り返す朱明だ。

 どう考えたって、瑞獣が現れるはずは無いご時世だ。確かに治世はまだ辛うじて安泰しているが、それとて危うい処まで来ている。

 法皇の権力は今や、天子の権力を上回っている。

 それは後見していた天子に侍る重臣を牽制しての事だったが、それ以上のものを発揮し始めているからだ。つまり均衡が保てなくなれば、乱が起きてもおかしくない状態だ。

 ……つまり瑞獣の筈は無い……はず。


「あの伝説のお妃様の?大神様がお遣わしになられ、輝くばかりの光を放ちご寝所に現れて、何か望みはないか?と問われた時の天子様が、ならば貴女を……とご所望になられ、後日陰陽寮を通して内裏に上がり、あっと言う間に天子様のお目に留まって女御となられた?あのお妃様の?瑞獣鸞?」

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