第7話

 朱明は幼い頃から、異様な物達を見る事ができた。

 我が一族の直系の嫡子は、必ずが備わっている。

 だから朱明の云う処の、小物達が見えるのだ。

 ヤツ等は時には朱明を利用し、時には陥れ時には助けてくれる。

 妖狐の孤銀は、物心付いた時から側にいて助けてくれた。

 父がくれた大事な、銀製の狐の根付。

 たぶんこれも恩恵というヤツだ。

 は必ず、朱明がヤツ等に利用されたり陥れられる時に、その真の姿を現して助けてくれる。

 五つ尾の妖狐となって助けてくれる……。



「おい……おい……おい……」


 朱明は思い切り、頰を引っ張られて目が覚めた。


「!!!!」


 暗い寝所にぼんやりと浮かぶ人影に、朱明は強張りを作って凝視した。


「お前陰陽寮の陰陽師の、安倍朱明だな?」


 人影はそう言うと、クイッと朱明の単衣の襟に手を掛けた。


「私は天子の所に行くよう命ぜられた。そなた如何様にか致せ」


「はっ?」


「……ゆえに、天子の所に行くのだが、母君様が安倍の陰陽師に上手くさせろと仰せなのだ」


「な、何故に?」


「そんなの知るわけがなかろう?母君様は詳しくは教えてくだされぬのだ。お兄君様方々に相談致さば、は致し方のない事だから諦めよ、と仰せで笑われる。私が幼いゆえに、お兄君様方々は揶揄われるのだ……」


 人影はそれは悲しげない様子を、思う存分わせて嘆いた。


「それはお気の毒に……」


「おっ!其方なかなか良いヤツであるな?」


 影がちょっと気味になっている。

 なんとも単純なだ。


「……で、お母君様とは?」


 朱明は孤銀を見た。

 孤銀は相も変わらず根付のままだ……という事は、このは朱明に害を与える物ではない。


「お母君様はお母君様だ……」


「ああ、さようで……」


 よくありがちなのだが、は意思疎通というものが無いに等しいから、話していて埒があかない事が多々とある。

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