第6話
「それはかの御子様が、〝かの方〟の子孫に与えた恩恵でございます」
孤銀が根付から再び妖狐となって、御帳台で横になっている朱明の傍に座して言った。
「かの御子様……って、かのお妃様の?」
朱明は切れ長の瞳を、御帳台の傍に座す孤銀に向けた。
「はい。かの君様が、親しきかの方の子孫に与えたのです」
「なんで?」
「それはかの方の、働きに対する褒美です」
「ああ、正二位の?」
「かの方は生涯、天子様とかの君様にお尽くしなられましたゆえ」
瑞獣の御子様の、褒美のスケールがデカい。
朱明は額の痣を摩って、根付で妖狐の孤銀を見つめて思った。
瑞獣お妃様の御子様はかの祖先の末裔に、この印を残して命を護ってくれる。
そして代々その直系の嫡子に、自分と同じ〝朱〟という文字を使った名付けを許した。
それは代々の当主が言い渡される、家訓の中に存在する。
つまり直系の嫡子は必ず、〝朱〟という文字を使った名をつけられる。
祖先の正二位が有り難く頂く程に、その御子様は尊いお方だったのだろう。
当時の上皇のお妃様の御子。つまりは天子の兄という事になる。
親王様という事だ。
天子の御子様といっても、親王宣下を頂かないと、親王とは見なされないのがこの国のしきたりだが、そんな宣下など頂かなくても、貴い天子様であられた上皇様と、大神様よりお遣わしのお妃様の御子様であられれば、尊いお方には相違ない。
そしてそれは不思議な力を、有していたのも想像ができる。
つまり怪物達から、身を護ってくださる力……。
朱明はその方に護られている、という事だ。
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