第5話

 かのお妃様は瑞獣ずいじゅうだ。

 瑞獣とは瑞兆として、姿を現わすとされている。

 瑞兆とは吉兆の前触れの事だが、平安の治世に現れるとも伝えられ、お妃様はその平安の治世に、大神様が慶びをお伝えにお遣わしになられたお方だ。

 つまり、そんな治世を乱す物をお許しになる筈はなく、そのバックに大物中の大物の大神が付いているから、大物中の大物怪物達は鳴りを潜めた。

 大物になればなるほど、大神の強力な〝神力〟の真を知っているからだ。

 なにせかのかの大昔に閻魔大王の代役を務め、そのお力の凄さを見せつけたお方だ。魔界では、その事を知らないものは存在しない。

 だから栄華を誇る平安の時代、魑魅魍魎は姿を隠し、鬼はその存在を消していたが、平安過ぎる世は人間の怨みやら欲やら嫉妬心などが、当然の様に噴き出る時代だ。呪詛や呪いなどのは、相手を陥れる為に日常茶飯事に行われ、それを破る除霊調伏などが行われる。

 いってみればそう言った類の呪術的な事においては、頗る花開いた時代といってもいい。

 つまり平安の文化は煌びやかな物と真逆の物とが、競い合う様に開花した文化なのだ。

 そして朱明などもそういった除霊などは、ちょっとはやった事もあるからできないわけでもない。それはごく普通の人間達が抱く程度の〝物達〟であって、過去に封印された〝物凄いもの達〟の事ではない。

 そんなもの達は生まれてこの方、遭遇した事もないのだから、ただの草子や文献の中の、架空空想の世界なのだ。

 だが恐ろしい事に、が架空空想の事で終わらないのが、此処中津國なかつくにだから困ってしまう。

 ……そう、は本当に存在し、今息を吹き返し始めているのだ……。

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