第2話

 かの平安なる治世は、少しずつ形を変えながらもまだ続いている。

 二百年近くも続いている。

 その間に花開いた多岐に渡る絢爛たる文化は、この国の繁栄と安泰を象徴しているが、古のお妃様の威光とも言うべき結界に綻びが生じ始めたのか、チラハラと怪しいもの達が現れ始めている。

だが長年の平安安泰は術師達の質の低下を生んでいた。

 二百年以上前ならばそれは腕の良い、伝説と化す術師も多数存在したが、その質も腕も必要とされずに過ぎたが、それらの者達の血筋に備わった〝もの〟をも劣化させ腐らせてしまった。

 今やそれ程の〝もの〟は家系血筋で、ある程度の地位を与えられ、知識を叩き込まれたとしても、決して芽生えも開花もしない。

 万が一芽生えたとしても、育つ事を知らない。

 仮令陰陽寮の学生がくしょうとなろうも、もはや〝それ〟を育てられる大人が存在しないのだ。

 ならば〝それ〟を芽生えさせたい者は、どうすればいいのか?

 自力で独立独歩、自我流でやって行かねばならない。

 仮令鬼に喰われそうになってもだ……


「大事ございませぬか?」


「身は大事ない……が、烏帽子をやられた。実に恥ずべき醜態だ」


 孤銀は命の危機よりも、烏帽子を外され頭髪を晒された事を恥じ入る、幼い頃よりよく知る陰陽師を見つめた。

 陰陽師安倍朱明あけあきらは、昔の天子に寵愛された公卿の子孫だ。

 確か摂政が、多大な権力を持っていた頃だったか……。

 当時の天子が摂政である叔父と対峙し、親政が行われたがそれは二代限りだった。

 上皇が崩御し、かの霊験あらたかなるお妃様妃が共に天に昇られ、今上帝が存命の内はお妃様の御子が御護り下されたが、今上帝が崩御のみぎりに共に天に昇られてしまった。

当時の今上帝の志を継いでいくには、抗えない諸事情があり過ぎた。

天意という言葉では、割り切れない事情だ。

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