第24話 一番
「せーのっ」
「「「「「おめでとう!」」」」」
僕は夢を見ていた。どこかの部屋でパーティが開かれている夢だ。目の前には五匹の猫。五色のマントを羽織った招福戦隊招き猫んじゃーだ。僕はクラッカーの紙を頭からかぶっている。
「ついに一番になれたな」
「時間がかかったものだ」
ブルーとグリーンが言う。
「マイちゃんが気づいてくれたおかげだね」
「そして二人は幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」
イエローとピンクが言う。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
僕はお祝いムード一色の招き猫んじゃーたちに待ったをかけた。
「一番って、こういう一番でいいの??」
「何でもいいって言ったのは陣じゃないか」
レッドがチキンを片手に、首を捻る。
「いや、まあ、そうなんだけど、マイはさ。何でも一番でいいならって、それで言ったんじゃないの?」
あの頭のいいマイなら、それぐらいの嘘はついていてもおかしくない。
「えー、嘘でずっと傍にいてくださいなんて言うかしら? もっと別な言葉にするはずよ」
「ピンクの言うことは一理あるけどさ、僕、そばになんていなかったし」
「それは中学の時だろ? 子供の頃から好きなんだから、マイのがんばり癖は陣が作ったってことだな」
「そう……、なのかな。でもさ、でもさ」
「なんだ、陣。もしかして元に戻りたくないのか?」
グリーンの言うことに、ビクッとする僕。すぐさま腰を折る。
「いえっ、戻りたいです。戻してください」
戻らないとマイはテニス部に入れない。僕じゃ入っても意味がないんだ。
「ふふふ。それで、陣くんの返事はどうするの?」
「え?」
イエローはにやけ顔で言ったことに、僕は反応に困る。
「どう、って……。やっぱり返事しないとダメ?」
「ダメだな。マイが言ったんだ。陣も誠実に答えないと」
「う」
グリーンって本当ハッキリ言うな。レッドが骨になったチキンを皿に置いて言う。
「陣は入れ替わる前、入れ替わっている最中、誰の事を考えていた?」
「……。」
「陣の一番想う人、それが一番好きな人だよ」
意識がぼやけてくる。
「そろそろ、お別れみたいだ。じゃあ、陣、素直になるんだよ」
招き猫んじゃーたちが右手の肉球を見せてゆっくり手を振った。
朝だ。薄暗い部屋の茶色い板の天井が見える。僕の部屋だ。
布団から両手を出して、天井にかざしてみる。ゴツゴツしていて、小さな
布団から這い出て、ベッドの脇に座る。あまりにも、僕の身体に自然に戻ってきた。だから、この数週間は夢なんじゃないかって、だんだん思えてくる。実はまだ入学式の次の日で、入れ替わりも起きていない。夢オチ。
入れ替わりよりも、ずっとずっと現実的だ。だから、中々重い腰を上げられない。
確かめるのは簡単だ。すぐそこにあるカーテンと窓を開ければいい。
だけど、夢だったらマイが僕の事を一番好きだと言ったことも夢なんだ。そう思うと胸がチクンと刺されたような痛みが走る。返事を言う必要も無くなるけれど。でも……。
「マイが待っているかも」
返事もだけど、そこにマイがいたら中々出てこない僕にそれこそ夢だと思っているかもしれない。だから、僕は立ち上がって、カーテンを開けた。
「……いない」
そこには黄色い花柄のカーテンがピシャリと閉じていた。
そう、思った。けれど、すぐにカーテンが揺れる。そして、マイが顔を出した。マイはいつものマイで、さらさらの髪がいつもより綺麗に思えた。カーテンが開かれ、窓が開かれる。僕も慌てて、窓を開けた。
「おはよう」
「おはよ」
僕らは挨拶をする。こんなこと入れ替わりが起こるまでしていなかった。
「マイ、あのさ……」
僕は勇気を振り絞る。僕の中での一番は君だと、マイに言うために。
了
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
僕が君で№1ガール 白川ちさと @thisa-s
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