第6話 恋する百合リズム

「るんっ、るるんっ、るるんるるん。」

 うわぁ、ゲシュタルトのような何かが崩壊しそうな"るん"の羅列……もはや、"るん"の暴力ともいえる。


 椅子取りゲーム。

 ルールは簡単、音楽が止まった後に1番早く座った人が勝ち。

 つまり2人用のゲームではない。

 ちなみにその音楽は、たゆがハミングで担当する為、ほとんど負けゲーである。


 教室内では冷淡で、静かな彼女はいつに無く楽しそうだった。

「ちなみに、ゲームに負けたら罰ゲームね?」

 仕様上、確実に受けることになる罰ゲームが気になる。

 プレゼントとかはお金ないから無理だけどな……。

「罰ゲーム?」

「そう、相手のお願いを一つだけ聞くの。」

「何ともアバウトだね。」

 お願いが相当に高額な買い物の可能性がある以上、余り負けたくないなぁ。


 いい歳した女子高生が、2人きりの理科室で1つの椅子を取り合っている。

 と言うか、椅子の周りをクルクル回っている。

「るんっ、るるん。」

 続くハミングに対して、安全上の問題で背もたれがない椅子は、全方位が守備範囲だ。


「るん、るるん……ほいっ、曲 終了。」

 私は唐突に訪れたその瞬間に、戸惑って、つい質問してしまった。


たゆ、座らないの?」

「うん、座っていいよ。」

 その純朴な瞳は、疑うことが馬鹿馬鹿しく思える程に澄んでいた。

 でも、何か企んでるはずだよな?

 と、思いつつも座ることにした。


「よし、これで私の勝ち?」

「ふふ、ちがうよ。」

 私の疑問に答えるように彼女はそう言って笑った……いや、笑っただけじゃなく、私の膝の上に座ってきたのだ。

 しかも、対面する形で。

 私の両太ももに手を当てて、目を正面から見てくる。

 何か少し、体が火照って来て目を逸らしてしまう。


「ぬぇあ!?」

「びっくり顔も可愛いな〜、いろたんは。」

「さすがに、私もびっくりするよ……。」

「椅子の上に居た・・いろたんに座った・・・から、これで私も勝ちだね。」

「そんなルーズなルールも、有りなんだね。」

 言ってしまえば、ゲームマスターのたゆが決めたルールに従うしかないけど。


「私がいろたんにして欲しいのは、リップをちゃんとつけること。」

「リップ?」

「そう、いろたんは中学生の時もリップしてなかったでしょ?女の子なんだから……ね?」

 今まで何度かしてみたけど、何となくする事を忘れがちだけど、それもバレたか。

 なんという観察力……。


「ほら、リップあげるから。」

 そう言って、リップを手渡された。

 優しい色をした、甘い匂いのするリップだ。


「それで、いろたんが私にして欲しいことは?」

 手渡された円柱状のリップが、手のひらでコロコロと転がる。

 こんな状況のせいで、少し変になってしまっているのか、して欲しいことがつい頭の中で葛藤する。


「……て欲しい。」

いろたん?」

「だから、その……私の唇に、リップ塗って欲しい。」

「そ、それはセクシュアルだよ!?」

 そこまで攻めた行為じゃ無いのに、何故か心がドキドキしてしまう。

 というか、別に性的セクシュアルでは無いはず。



「わ、分かった。それがいろたんのお願い事なら仕方ないなぁ。」

「……」

 彼女は、私の手のひらにあった、一応は新品のリップを取って、キャップを開けた。

 そして、細かに震えるまま私の唇に……。



不意に扉が開く音がして、我に返った。

「あの……羽野崎さん?」

 この声は確か……。

 それは、理科の担当をしている渡野わたりの先生の声だった。

「ふ、2人とも何してるの?」

 何故か少しだけ嬉しそうな声で話す先生は、開いたままの入口に立っていた。

 これが内申点に響くかもしれないと思うと、複雑な気持ちに駆られてしまった。

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コミュ障の幼馴染が心に直接告白してきたけど、そもそも同性。 山田響斗(7月から再開予定) @yamadanarito

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