第4話 恋愛上級者

「2人が付き合ってることは、とりあえず隠しとけよ?」

「なんで?」

 朝、たゆとの登校を終えて、教室に辿り着いた時、山田が小声でそう話しかけてきた。

「なんでって……俺らオタクと違って、LGBTを良く思ってない奴らも居るんだよ。」

「ふ〜ん、まぁ確かにね。」

 かく言う私も昨日までは、女の子と付き合うなんて思ってなかったしな。

 まぁでも、「大切」やら「大好き」やら……割とガチで言ってしまってる自分も居るからなんとも言えない。


「気をつけろよ?」

 その忠告だけを言い残し、山田は自分の席に戻り、小説を読み始めた。

 顔は悪くないけど、なんというか性格に加えて気が強い所もあるんだよな、アイツ。

 だから友達少ないんだけどね。

 と思いつつも、他にやることもないのでたゆと2人で席に向かった。


いろたん、"えるじーびーてぃー"って何?」

「LGBTっていうのは、同性愛とか、"性別関係ない"っていう人達のことだよ。」

「嫌われてるの?」

「う〜、まだ嫌ってる人は居るけど……昨日までの私も含めて、経験も知識もない人がまだ結構居るしね。」

 実際、まだ約2割の人達は同性愛に反対してるって言ってたし、公表して面倒事に巻き込まれたくもないな。


 たゆは憂いを込めて言う。

「知識か……。無知は罪だし、恥なのにね。」

「そりゃそうだけど。特に日本はね……。」

 その返答を聞いた幼馴染は、視線を私から、何も書かれていない綺麗な黒板に移して、左手で頬杖をついた。

「まぁ、ここが好きな人を好きだって言えない国なら、私は違う国でいろたんに"大好きだぁ"って言うけどね。」

「……イケメンかよ。」

 しかも、儀容ぎようさと無邪気さを兼ね備えたその態度はクーデレに近い。

 もちろん2人きりの時は、普通にデレるところもあって……って、よく考えたらデレの割合が結構高いよな。


 私に向き直った彼女は、またもや心の中に語りかけてくる。

『付き合ってること隠さなきゃ行けないなら、公衆の面前で甘えちゃだめなんだよね。』

 逆に、なんで良いと思ったのかが分からない……コミュ障のくせに、何でかアクティブスキルが高いんだよな、この

 "勿論"、"言語道断"、"断固拒否"、その意を伝えるために頷いてみせた。

 そもそも、甘えられる時点で若干恥ずかしいし、学校生活に集中できない。


『やっぱりそうだよね、じゃあ心の中でしか甘えられないんだ……。』

「それでも充分じゃないの……?」

「うん、全然足りないよ。今までの会えなかった3年間の分、ずっと溜まってるから。」

「3年……。」

 となると、中学2年生の時に遠くに引っ越してしまったあの日から少しづつ溜まってるって事になる。

 つまり……。


「3年前から、私の事……?」

「そうそう。ちなみにそれが、私の初恋。」

「マジでか。」

「もう一生会えないかと思ってたから、反動でつい甘えたくなっちゃって。」


 そういうと彼女は、モゾモゾと体を動かしながら私から目を逸らしつつも、チラチラとみながら言った。

「で、でも悪いのは、私じゃなくていろたんだからね。」

「はぅ……今度は乙女かよ。」

 一体私は男女どっちのスタンスでいれば、このキュンとする気持ちを抑えることができるのだろうか。


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