第2話 告白

 唐突な告白の後、何も無かったように凛としているたゆは、結局社会の時間中に話しかけてくる事は無かった。

 横で見ている限り、真面目でおしとやかな雰囲気を感じるたたずまいだが、実はただのコミュ障だと言うことはあまり知られていない。

 何故か私には、普通にはなせているけど……。

「あぁ、もうすぐ時間か……じゃあ、少し早いけど終わるぞ。挨拶。」

 担当の先生の合図で、元気もやる気も無い挨拶か室内にポツリポツリと響いた。


 ***


 挨拶も終わり、騒々しい休み時間が始まったが、たゆはそんな事を気にも留めずに持っていた小説を読み始める。

 私は、本に目を向けたままのたゆに話しかけてみる事にした。

「た、たゆ?なんで、引っ越してくる事言ってくれなかったの?」

「サプライズだよ、好きでしょ?」

 彼女は悪戯いたずらに笑って、小さな声でそう質問に答えた。


「それより、私からの告白は真摯に受け止めてくれてる?」

「た、たゆ……私は、女子だよ?」

 たゆは、少し頬を赤らめたと思うと、唇を小さく噛んだ。

 少しすると彼女は口をツンと突き出して、更に小さな声で……今にも消え入りそうな声で呟く。


「そんな事関係ないよ、だって……。」

「だって?」

「だって私が好きなのは、"男の子"でも"女の子"でもなくて、"いろたん"なんだから。」

「はぅっ……。」

 この幼馴染、言動がイケメンだ……。

 こんなにも、女の子の落とし方を理解出来ている女子が居るなんて……。

 これはもう、付き合って毎日ドキドキする日々を送りたくなってしまう。


「もう、たゆったら……仕方ない、私が付き合……。」

「あの……たゆさんだっけ?」

 タイミング悪く百合に割って入ってきたのは、山田だった。

 山田やまだ みけ

 たぐいまれなる堕天化の適応者で、白無垢の対となる黒無垢に選ばれし……まぁ、要するにこじらせ過ぎた中二病だ。


 急に話しかけられ、心の準備ができていなかった彼女は、目を泳がせながらどよめく感情を抑えているようだった。

「あのえっと、その……。」

 たゆが、持ち前のコミュ障を発揮してしまった時点で彼女にとって負け局面。

 しかも、相手は中二病に加えてオタク気質の山田……中々の猛者もさだ、話を始めると止まらない。


「その読んでる本って、"このすぱ"?やっぱ面白いよね、特に〜〜が〜〜で……。」

 たゆが持っていた本に触発された山田が、オタクの脆弱性に憑かれたように話し始めた。

『い、いろたん、助けて……。』

 心の中に、たゆの嘆きが聞こえてくる。

 助けを求める幼馴染は、私に告白した時のような強気な態度とは打って変わって、随分と弱気だった。


 "助けてあげないと"

 直感的に山田の……いや、堕天の黒無垢の暴走を感じ取った私は、たゆの為に行動することを決めた。


「山田、やめてあげてよ。」

「何だよ、いろは関係ないだろ?」

「あるよ……!」

 山田は、会話(と言うより一方的な言葉責め)を途中で止められたことが不服だったようで、あからさまに嫌そうな顔をしていた。

 勿論、たゆも負けない程に困った顔をしている。……でも、困った顔も可愛い。

 思わず見入ってしまいそうになる。


 不満だ、というように胸の前で腕を組んでいる山田。

 根は真面目でいいやつのはずなんだけど、オタクはオタクなんだな。

「ふっ、偽善ぎぜんでも語る気か?」

「違うよ、たゆは……。」

「何だよ。」

たゆは、私の大切な……大好きな彼女なんだから。」

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