コミュ障の幼馴染が心に直接告白してきたけど、そもそも同性。

山田響斗(7月から再開予定)

第1話 パートナーシップ

 浅利あさり たゆ

 幼馴染で美少女、安定のラノベ風な関係性。

 家庭の事情で、中学生の時に遠くに行ってしまったけど、たまに連絡を取り合ってる。

 茶髪の癖に生娘で、ちょっと揶揄からかうとすぐ反応してしまうため、一緒に居て退屈しない。

 友達は少ないらしいけど、お茶目なで一緒にいると、形容しがたい"ほっこり"を感じることが出来る。

 最近は直接会うことは無いし、性格ぐらいしか分からない。

 でも、そんな事は自分には関係ない。

 なんて言ったって私、羽野崎はのざき いろは、絶世の普遍的少女なのだから。


「おはよう、いろちゃん。」

「おはよ、この。」

 数少ない友達の1人、このが朝から元気に挨拶をしてくれる。

 そう言って、1番後ろの席に座っている私の右隣に座った……左隣には窓際にポツンと、誰も座っていない席がある。



いろ、知ってる?」

「ん、何を?」

「今日、転入生が来るんだって。この時期に珍しいよねー。」

 転入生か……確かに2年の6月、陰鬱な梅雨の時期に転入して来るのは珍しいな。

 どんな子なんだろう、男の子だといいな。


 ***


「ハイ、席に着いて。今日は転入生が来ています。それと、山田は早く腕の包帯を取りなさい。」

「毎回言ってますけど、これは包帯ではなく、体の一部です。」

 毎日毎日、山田は厨二病をこじらせすぎて痛々しい。

 まぁ、根が真面目だから許されてるようなものだし、厨二にも真面目に向き合う日がいつか来るだろう。


「わかった、"堕天だてん黒無垢くろむく、山田"は黙っていなさい。」

理解アンダスタンド。」

「じゃあ、転入生の浅利あさりさん、入ってきて。」

 浅利あさり

 ガラガラと、混沌とした教室のドアを開けたのは茶髪で整った顔立ちをした、懐かしの幼馴染。


「は、初めまして、浅利あさりたゆです。よろしく……お願いします。」

 容姿端麗、外見や態度のイメージだけで表すと、今のたゆは深窓の令嬢……。

 抽象的に考えると、"可愛い"と言うよりは、"綺麗"と言ったところだった。


浅利あさりの席は、あそこ……羽野崎はのざきの隣だな。」

「はい。」

 学校指定のバッグを持って、カツカツと音を立てて歩いてくる。

 その間、クラスはいつもとは違う異様な空気に包まれていた。

 な、なんてラノベチックな展開なんだ……。


 ***


「とりあえず、これでホームルームは終わりだ。挨拶。」

 特に何の変哲もないHRホームルームも終わり、ザワザワと淀めきだす教室。

 一方のたゆは、曇り始めた空も、取り敢えずは尋常に保たれている教室の空気も気にせずに本に目を落としている。

 教室のざわめきは 1時限目の社会が始まるまで、止まることなく続いていた。


「教科書の70ページを開け。」

 社会担当の勝木かちき先生が言うと、教室の中にページの擦れる音がさざめく。

 もちろん、私も隣のたゆも例外じゃなく、ページをめくる。


『一発で70ページ開けた、ラッキー。』

「……?」

 今、頭の中で声が……。

 いやいや、そんなテレパス能力を使えるような人間が、こんなにフワフワした思考なわけが無い。

 幻聴だな……きっと疲れてるんだよ。

 そう考えをまとめて、教科書に集中しようとした。


『はぁ、しっかしいろたんは、昔から可愛いな〜。もう……膝枕とかしてあげたい。最早、"尊い"を一周分通り越して"純粋に好き"。』

 うっ……頭に直接、怪文書並みの言葉の羅列られつが湧き出てくるみたいだ。

 心に直接話しかけられるのも、"たん"付けで呼ばれるのも初めてだけど、何となく私のへきに刺さるものがある。


『聞こえてるんでしょ?いろたん、こっち向いてよ。左側。』

 純朴な愛をささやく声に言われるがまま、左側を向く。

 もちろんそこに居たのは、転入したての幼馴染、つまり"たゆ"だった。

 しかも、私にほほ笑みかけるようにテレパスしてきている……。


『そんな顔しないでよ、こんな美少女がいろたんになびいてるんだよ?』

 なび云々うんぬんの話以前に、もっと気になることがある気がする。

 ……ので、とりあえず小声で聞いておくことにした。


「そのテレパス能力って何?転生でもしたの?」

『そんな事はどうでもいいでしょ?それより、1つ言いたいことがあって……。』

 私の質問は、軽く流され……いや、言ってしまえば無視されてしまった。

 したたかというか、全力で我を通してくるというか……、攻めが強い気もする。


 両脚を綺麗に床に着けている彼女は、6月には蒸れてしまいそうなストッキングを履いている。

 なんて、どうでもいいことを考えていると、また幼馴染は口を……心を開いた。

いろたん、私と付き合ってよ。』

「つき……!?」

 付き合う、って言ったらその……彼女になるって事?

 ダメだ、展開が早すぎてついていけない。

 対して彼女は顔も姿勢も一切崩すことなく、麗しさを保ったまま、授業を受けるふりをしていた。




 人生はラノベと同じくらい奇なり。

 ──羽野崎はのざきいろ

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