第十二章 捜査

 ルイス警部が、月曜日にデンマークに到着してから五日経った、六日目の土曜日の午後二時頃だ、ルイス警部が、作戦室で四杯目のコーヒーを飲みながら、事件の事を教えていると、そこにルイス警部の上司の部下が、歩み寄って来た。今朝方ドイツで捕まえた三人の身元特定と彼らの指紋とDNAを採取して、ヒメオコゼを料理に出す店の工場で捕まえた男たちとアルベール・オダンの指紋とDNAも含めて、今回の事件で押収した物との照合を行った事を告げた。捜査の経緯はこうだ、まず初めに、ライフルとピストルといくつもの試験管に付いていた指紋と工場で捕まえた男たちとアルベール・オダンの指紋の照合をした結果、ライフルとピストルに付いていた指紋と工場で捕まえた男たちとの指紋が一致して、その他にある一人の別の誰かの指紋が浮かび上がって来た事が分かった事と試験管全てにおいて、指紋は全て綺麗に拭き取られていた事が分かった事を伝えた。次に工場にあったいくつもの試験管全てがヒメオコゼの毒で、その毒のDNAとデンマーク王立図書館の体調が悪くなった職員から採取したヒメオコゼの毒のDNAと照合した結果、完全に一致した事が分かった。次にドイツで身柄を拘束した三人の人物が持っていたフランス紙幣とドイツ紙幣をどうやって受け取ったのかと聴いたが、旅行会社のサービスを利用して受け取っただけで、何もやましい事は無いと言っていて、ホテルでNCA捜査官たちから逃げようとした事は、ライフルやピストルを持っていたからだと主張している事を伝えた。ドイツで身柄を拘束した三人は、持っているパスポートからすると、それぞれ、男はエイドリアン・バンクス、二人の女の内の年配の女はクレア・アップルビー、そして若い女はドリー・ベイノンという名前で英国人の様には見えるが、実は彼らは偽名を使っていて、本当は三人ともフランス人で男はアルマン・ボリエ、年配の女はアルレット・カンボン、若い女はベレニス・カルメという名前である事を伝えた。そして三人とも職業は、それぞれ異なる外国料理店の従業員という事になっていて、料理の研修にここドイツに来ている事になっているが、実は三人とも色々な軽い仕事をして、色々な仕事を転々としている事、どれもパートの様な仕事の形態みたいである事を伝えた。次にベレニス・カルメがパルケン・スタジアムの近くの郵便局にいた事とアルマン・ボリエが郵便博物館にいて、二人とも同じフランスの住所に郵便物を送っている事を、どちらの人物の場合も担当した職員が顔を覚えていて分かっているのだぞと問いただしたが、二人とも偶然の一致に過ぎないと言って、それ以上は何も言わなかった。アルマン・ボリエとアルレット・カンボンとベレニス・カルメにそれぞれの指紋とDNAの提出を要求した、彼らは何も戸惑う事も無く、提出に応じた。そしてライフルとピストルに付いていた指紋と彼らの指紋を照合したが、一致しなかった。その後に調査の用意に時間がかかっていたデンマーク王立図書館の盗難現場にあった血液と今回の事件で逮捕した全ての人物たちのDNAとの照合を行った。その結果一人の人物のDNAと一致した。それはベレニス・カルメの物と一致したのだ。

 ルイス警部は、ベレニス・カルメを小さな部屋に通して、質問を始めた。ベレニス・カルメは、髪はブロンドで、目の色は青色で、目鼻が小さく顔に収まっていて、唇は桜の様なピンク色を見せていて、体も小さくて、とても可愛らしい容貌と風貌をしている女性だった。ドイツで捕まえた三人はどの人も髪はブロンドで、アルマン・ボリエは目の色が緑で、アルレット・カンボンの目の色は茶色で、三人とも見た目はハンサムだったり、綺麗な出で立ちであったりした。ルイス警部は、相手の様子を窺いながら、ベレニスに「カルメさん、どうしてあなたは郵便局でフランスに荷物を送り、ドイツへと入国したんですか?教えて頂けませんか?」といった。ベレニスは、少し黙っていて、微笑みを口元に浮かべながら、ルイス警部に「私、フランスに荷物を送ったかしら、全然記憶に無いわ、ドイツへは仕事の都合上で訪れただけよ」といった。ルイス警部は、落ち着いた様子で、ベレニスに「しかし、あなたは郵便局の監視カメラに、フランスへの郵送をお願いしている所が映っていますよ。それはどう説明するんですか?」といった。ベレニスは、机を指で叩きながら、ルイス警部に「もしフランスに荷物を送った事が事実だとして、それが何の罪になるんですか?そんな人、大勢いますわ」といった。ルイス警部は、辛抱強く、ベレニスに「そうですか、それと後一つだけ、あなたのDNAとデンマーク王立図書館の現場にあった血液が一致したんですよ、それはどう説明するんですか?あなたは確実にあの場所にいたんです、関係者しか入る事の出来無い場所にね、そして本が消えた。あなたが盗み出したのでは?」といった。ベレニスは、顔色一つ変えずに、ルイス警部に「お話しは以上ですか?捜査官、私は、話す事は何一つ無いわ」といった。ルイス警部は、少しだけその場にじっとして、相手を観察してから、席を立ち、小さな質問部屋から出て行った。ルイス警部は、通路でルイス警部の上司の部下に「カルメは、恐らく本を盗んだに違い無いな、盗難犯は大抵仲間と一緒に盗みを働く筈さ、だからカルメと同じフランスの住所に送ったもう一人の男も、盗難犯の一味である可能性がとても高い、それにアルレット・カンボンもフランス紙幣とドイツ紙幣に書かれた数字と紙幣の製造番号が一致しただけだが、盗難犯の一人である事も可能性として、決してゼロでは無い、それから巧みな犯行からして盗難は初めてじゃない筈だ、今日までに犯行を重ねているに決まっているよ。彼らに似た手口や人相をあらってみよう」といった。

 暫くして、ルイス警部は、ドイツで逮捕した三人が盗難犯であるという考えから以前にも同じ手口で美術品などを盗んでいるに違い無いと考えて、国際的密輸事件の捜査を熱心に当たっているNCAに協力を仰ぎ、今回の事件と関わり合いがある人物たちが起こした事件が無いか調べた。するとパルケン・スタジアムの近くの郵便局と郵便博物館においての監視カメラに記録されているアルマン・ボリエ、アルレット・カンボン、ベレニス・カルメの声が、NCAが前々から極秘で捜査していた、三年前に起った宝石盗難事件の犯人たちの声と一致した。宝石盗難事件の時にNCAは、犯人たちの声の他には掴めていない状態で、以前の宝石盗難事件は未解決のままになっていたのだ。今回の調べで三人を宝石盗難事件の罪とパスポート偽造の罪で捕まえる事が出来た。それから再びNCAはアルベール・オダンの指紋が、二年半前のダイヤモンド盗難事件の時に、犯人の指紋が金庫に付着してあって、その指紋とアルベールの指紋が一致して、さらにアルベールが所持していたダイヤモンドが、二年半前に盗難にあった物と完全に構造が一致して逮捕されたのだ。アルベールを作戦本部に連れて来た時の、荷物チェックをした時に写真を撮り、その時のダイヤモンドの写真を盗難にあったダイヤモンドと比較したのだった。

 ルイス警部が、月曜日にデンマークに到着してから五日経った、六日目の土曜日の午後七時頃だ。そこにルイス警部の上司の部下からアルベール・オダンが、ルイス警部と至急話しをしたいと言っていると連絡が入った。ルイス警部は、急いで質問室へと向かった、部屋に入るとアルベールが手錠をしながら、椅子に座っていた。ルイス警部は、アルベールに「話しとは何かね?アルベールさん」といった。アルベールは、切羽詰まった様子で、ルイス警部に「あなたに話したい事があるんですよ。しかし、ただでは、お話しするつもりはありません。私がした罪の刑期を少し、短くして貰いたいんですよ、それ相応の情報をあなたに与えますから、どうです?この話しに乗る気は、無いですか?」といった。ルイス警部は、思案顔で、アルベールに「司法取引という事だね、んん、まずは話しを聴いてみなくてはね、何とも言えないなぁ」といった。アルベールは、勝ち誇った様に、ルイス警部に「あなたが、今とても知りたい話しです、損はさせません。今回の本と切手の盗難を企てた黒幕についてですよ、どうです?私は黒幕の居所を知っているんですよ」といった。ルイス警部は、少し難しい顔をして、アルベールに「では話しを聴こうじゃないか」といった。アルベールは、顔を輝かせながら、ルイス警部に「黒幕は、フランス人で、彼が居るのは、コペンハーゲンのノアブロ地区で、スーパーキーレンという公園の近くの住宅に居る。この建物の三階に、彼は居るんだ」といって、上着の内ポケットから建物の映っている写真を取り出し、そして見せた。ルイス警部は、真剣な顔付きで、質問室から出て行き、ルイス警部の上司の部下に「アルベールが言っている事は、間違い無く本当であると思うんだ。なぜなら犯人たちはフランスの住所に荷物を送っている、その事から黒幕がフランス人である事に合点がいく。そしてフランス紙幣に書かれていた数字は、フランスの住所の数字と一致している、直ぐに特殊部隊を引き連れて、犯人たちを捕えよう。それとドイツで逮捕した時に犯人たちは、NCA捜査官たちが来る事を察知した様に、早朝なのに素早く逃走を図った。さらに犯人たちは急な知らせだった様で、荷物も最小限の物に限って所持していた。捜査情報が敵に漏れているかも知れない、直ぐにその事も調べてくれ」といって、頷いた。ルイス警部の上司の部下は、ルイス警部に「分かりました、早急に対応します」といって、頷き返した。ルイス警部は、話しを終えると、ルイス警部の上司に、アルベールの話した事を聴かせた。するとルイス警部の上司は、相手は国際的密輸事件の犯人たちで、どんな手段を使っても逃げようとしてくるだろうと考え、特別捜査機関に与えられた特権で、英国軍の保有する特殊部隊の出動要請を願い出た。

 作戦室のテレビ電話機能で、英国軍の上層部に繋がり、英国軍の上層部は、険しい顔付きで、ルイス警部に「どうやら国際的密輸犯人たちの居場所を掴んだそうだな、ジョナサン警部、んん、君は元エジプト軍であり、反乱軍のリーダーとその側近たち、そしてトルコの傭兵部隊のリーダーたちを暗殺して、エジプトを反乱から守り、二十五歳で勲章を貰った、伝説のスナイパーだ。君の様な経歴を持つ人材が、今デンマークには、必要なんだ。ジョナサン君、君は英国海軍が保有する誇り高き戦士だ、英国式の正義を存分に見せてくれ。それと今回君と出動する特殊部隊は、英国海軍特殊部隊特別迎撃チームだ。この部隊は、軍でも、トップクラスの戦闘成績を収めた部隊で、今回は五人の隊員を選抜した。君を入れて、六人で標的の制圧を君の指揮で行う事になる、心してかかってくれ」といった。ルイス警部は、目の奥を輝かせながら、英国軍の上層部に「了解です、任務を遂行し、真の正義を果たしてきます」といって、頷いた。

 ルイス警部が、月曜日にデンマークに到着してから五日経った、六日目の土曜日の午後八時頃だ。英国ではデンマークよりも、一時間前の午後七時頃だ、ビヤール教授が英国の自宅で、趣味のピアノを弾いている所だ。いつも週末の日課でピアノを弾くのだ、論文を書く為に、気分を落ち着かせ様と弾いている。ピアノは、PLEYELのアップライトピアノを使っていて、弾いている曲は、アダン・アドルフの曲である。するとそこに、ビヤール教授の携帯電話が部屋中に鳴り響いた、音楽を奏でているので、すこしばかり遅れて携帯電話に出た。ビヤール教授は、電話の相手に「はい、ビヤール、何かね緊急事態かい?バルリエ」と電話をした。バルリエは、少し沈んだ様子で、ビヤール教授に「“民衆を圧政から解放し、自由と平等を与える解放軍である”という信念の元に活動しているヴァイキング・パワードの今回本と切手の盗難を行った人物たちのアルマン・ボリエ、アルレット・カンボン、ベレニス・カルメとヴァイキング・パワードとの連絡係のトゥルージャスティスのアルベール・オダンがそれぞれドイツとデンマークで逮捕されました。どうしますか?ビヤール教授」と電話をした。ビヤール教授は、考え込みながら、バルリエに「しかし、この状況は予期していた展開では無いかね?作戦は次の段階へと移行して、執拗に追って来る相手の排除を行うしかないね。僕たちの組織であるトゥルージャスティスの行っている活動である“権力と暴力に基づいたシステムは、正義と幸福に反する全ての事をもたらし、自由を阻害するよって、権力と暴力に基づいたシステムの無い社会と、富の平等な分配を与え、自由と富の平等な分配を与えるシステムの管理をアンドロイドに担わせ、人類は芸術や科学といった創造的活動に従事する”という信念を邪魔させてはならない。バルリエ、君に今回の活動の妨害をする人物たちの排除を任せて良いかね?」と電話をした。バルリエは、満足そうな顔をしながら、ビヤール教授に「是非私に任せて下さい、私たちの正義を分からせてやります」と電話をした。ビヤール教授とバルリエとの電話での会話は終わった。

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