第九章 追跡

 ルイス警部が、月曜日にデンマークに到着してから四日経った、五日目の金曜日の午前中だ。ルイス警部は、作戦室でコーヒーを飲みながら、工場で押収した物を調べている。作戦室では、あらゆる捜査官たちが捜査中で、手に入れた事柄を色々な方法で検証している、作戦室にあるパソコンなどの機材が音や光を放ち、せわしなく動いている。ルイス警部は、郵便博物館の不審な荷物の郵送をお願いしてきた人物と郵便博物館の不審な荷物の郵送に使ったフランスの住所と同じ住所のパルケン・スタジアムの近くの郵便局の荷物の事で、荷物を送る様にお願いをしてきた人物の二人の顔を覚えていないかどうか、確かめる為に、特別捜査官を何人か郵便博物館とパルケン・スタジアムの近くの郵便局に向かわせた。もし郵送のお願いをした人物たちを覚えているならば、似顔絵を描かせる様に指示を添えてだ。押収した物は、ライフルのH&KのMP5K PDW、STEYR-HCとピストルのH&KのP7M13、H&KのUSPとH&KのP7M13のカスタムパーツ(H&KのP7M13の銃口を長くする物)と軍用のナイフと軍用の警棒といくつもの試験管、それからスーツケースに入ったフランス紙幣とドイツ紙幣であった。まずは、押収したライフルやピストルからの指紋を採取して、今回の工場での銃撃戦で捕まえた人物たちの指紋との照合を行っている。そして工場内の検査室にあったいくつもの試験管の中の特定と、もしその試験管がヒメオコゼの毒ならば、デンマーク王立図書館、通称ブラックダイヤモンドで体調を崩した職員の体内から採取された毒物と同じヒメオコゼの毒物であるかの照合を行っている。最後にフランスの紙幣に書かれた七桁の数字とドイツの紙幣に書かれた四桁の数字の意味の検証を行っている。

 ルイス警部は、紙幣の調査をしている捜査官たちの所へ行って「どうかな?捜査に進展はあったかい?教えてくれないか」といった。紙幣の調査をしている捜査官の一人が、ルイス警部に「はい、この紙幣は外国紙幣なので、恐らく空港で手に入れた物であると考えています。ああ、すみません、ジョナサン警部。自己紹介がまだでしたね、私はエイベルです、エイベル・アビントンです。それで、今空港に問い合わせて、今回工場で手に入れた紙幣の製造番号が、空港での紙幣の交換に使われた物と一致しないかを調べている所です」といった。ルイス警部は、頷きながら、エイベルに「そうか、何か分かった事があったら、言ってくれ」といった。大分時間が経った頃、エイベルが、駆け寄って来て、ルイス警部に「ジョナサン警部、ありました、進展がありました。今回手に入れた紙幣の製造番号が、空港において外国で使う為の紙幣交換で、扱っていた紙幣だと分かりました。空港の紙幣交換に使った紙幣の製造番号と一致したという事です。恐らく犯人は、飛行機を使って、フランスかドイツへ行って、国外へ逃亡したと考えられます」といった。ルイス警部は、険しい顔になり、エイベルに「それでは、もうデンマーク国外へ出てしまって、かなり経っているという事か、どうすれば良いんだ。フランス紙幣に書かれている数字とドイツ紙幣に書かれている数字はいったい何を意味しているんだ」といった。押収物を手掛かりとして、どうにか犯人へ繋がらないかと考えて、かなりの時間が流れた。ルイス警部は、フランス紙幣とドイツ紙幣に書かれている数字を郵便番号か私書箱の番号として考えていた。ルイス警部は「どうも、どれもしっくりこないな、フランス紙幣に書かれている数字は、一度何処かで、見た気がするんだがな。フランス紙幣にしろ、ドイツ紙幣にしろ、書かれている数字は、いったい何の番号なんだ」とつぶやいた。それからルイス警部は、自分の腕時計を見て、作戦室に居る捜査官たちに「捜査を開始してから、凄い時間が経った、捜査官のみんな、今日も家に帰れそうも無いけれども、どうか許して欲しい。この事件を解決すれば、今世間を騒がしている凶悪事件の一つを解決する事になる。人々の安全を確保する事に繋がるという事だ、捜査官のみんな、どうか僕に力を貸してくれ」といった。作戦室に居る捜査官たちは、真剣な引き締まった態度で、ルイス警部に「了解です、私たちを活用して下さい」や「大丈夫です、この仕事を誇りに思っていますので、最後まで付き合わせて下さい」などといった。ルイス警部は、微笑みながら、作戦室に居る捜査官たちに「みんな、ありがとう、頼りにしている」といった。するとそこに、プルル、プルルと電話の鳴る音が聞こえて来た、作戦室に居る一人の捜査官の携帯電話の鳴る音だ、その捜査官は、同僚の捜査官に「ちょっと、失礼、電話だ、ちょっと電話に出て来るよ」といって、作戦室の入り口の出た直ぐの所で、電話での会話を始めた。作戦室に居た一人の捜査官は、携帯電話に向かって「ああ、今電話をしようとしていた所だよ。うん、予定通りに明日は子供たちは、ドイツにスポーツ合宿に行くんだね。うん、うん、分かった。忘れ物をしない様に気を付けるんだぞ、それじゃあな、ああ、俺も愛しているよ、子供たちに宜しく言っておいてくれよ、それじゃ」と携帯電話でいった。作戦室に居る捜査官たちの中の数人が、作戦室の入り口の出た直ぐの所での、電話での会話に出て来たドイツという言葉に、色めき立った。ルイス警部も又同じで、少し興奮した様子で、作戦室の入り口の出た直ぐの所で、電話をしていた捜査官に「やあ、家族に電話かい?今日は帰れないからね、本当に申し訳ない。それで、先程の電話での会話で、ドイツとか何とかって、言っていなかったかい?もしそうなら話しを聴かせてくれないか?」といった。電話をしていた捜査官は、快活な表情で、ルイス警部に「ええ、家の子供たちが明日、ドイツへスポーツクラブの合宿に行くんです。その事で話していました。家の子は二人兄弟で、二人ともスポーツ好きなんです」といった。ルイス警部は、興味深げに、電話をしていた捜査官に「うむ、なるほど、それでドイツという言葉が、出て来た訳なんだね、それじゃ飛行機の旅になる訳なんだね、ちょいとした海外旅行だね」といった。電話をしていた捜査官は、又しても快活な表情で、ルイス警部に「それが家の子供たちのスポーツクラブでは、コペンハーゲン中央駅から出ている渡り鳥ラインと呼ばれる列車の線で、コペンハーゲンからハンブルクへと移動して、ドイツに入国する予定です。子供たちは明日のスポーツクラブの合宿を前々から楽しみにしていたんですよ」といった。その言葉を聞いて、ルイス警部は、驚きで目を大きく開いた。ルイス警部は、驚いた表情で、電話をしていた捜査官に「何だって、飛行機を使わずに、ドイツに入国出来るのかい?それは本当かい?」といった。電話をしていた捜査官は、落ち着いた様子で、ルイス警部に「はい、さっきも言いましたが、コペンハーゲン中央駅から出る、渡り鳥ラインを使う列車に乗ると、コペンハーゲンからハンブルクへと向かい、ドイツに入国出来ます」といった。ルイス警部は、はっとした様子で、作戦室内をグルグルと回りながら、作戦室に居る捜査官たちに「そうか、てっきり外国に行くのだから、飛行機しかないと思っていたが、列車で行く事が出来れば、話しは別かも知れない。紙幣に書かれている数字に関して、飛行機に焦点を当てるだけの捜査からコペンハーゲン中央駅から出ている列車にも焦点を当て、捜査範囲を広げての捜査に切り替えるぞ」といった。作戦室に居る捜査官たちは、興奮した様子で、頷きながら、ルイス警部に「はい、了解です」や「そうですよ、捜査に良い兆しが見えてきましたね、ジョナサン警部」や「では、早速その方向性で捜査を再開します」などといった。それからルイス警部は、真面目な顔をしながら、作戦室に居る捜査官たちに「工場で発見した紙幣が扱われていた空港に、うちの特別捜査官たちを向かわせてくれ。そして空港でデンマーク紙幣からフランス紙幣とドイツ紙幣の交換をした時に、その紙幣を受け取った人物の特定を急いでくれ、大至急で頼む」といった。作戦室に居る捜査官たちは、意気込んだ様子で、ルイス警部に「直ぐに取り掛かります」や「少しでも時間を短縮して、特定に当たります」や「今回の手掛かりを使って、なんとか犯人を焙り出します」などといった。そこへ捜査官の一人が、慌てた様子で作戦室に走り込んで来た。それからその捜査官は、息を弾ませながら、ルイス警部に「ジョナサン警部、ふぁふぁ、ジョナサン警部、今郵便博物館とパルケン・スタジアムの郵便局で、同じフランスの住所を送り先にした件で報告します。どちらの人物も職員が顔を覚えていたんです、それで似顔絵を描くのが完了して出来上がりました。その似顔絵をどうしますか?ジョナサン警部?」といった。ルイス警部は、瞳の奥にキラリとした輝きを灯しながら、捜査官の一人に「それは大変嬉しい知らせだ、良くやったな。直ぐにその二人の似顔絵をドイツとフランスのホテルなど、人が暫く隠れながら集まりやすい所に内密に知らせてくれ、それから空港で紙幣の交換をした際の紙幣の製造番号と一致する紙幣がフランス市内とドイツ市内で、使われている所が無いかも内密に調べて貰う事にしてくれ。もし公に手配を行ったら、又何処かの外国に逃げるかも知れない、今回はフランス警察とドイツ警察にまだ知らせないで、捜査を行いたい、良いね、みんな頼むぞ」といった。するとエイベルが、にこやかな顔で作戦室にやって来て、ルイス警部に「ジョナサン警部、ドイツ紙幣に書かれている数字と渡り鳥ラインを使った、列車の発車時刻の数字が、合致する事が分かりました。飛行機の場合では、存在しない数字の組み合わせでした」といった。ルイス警部は、口元に微笑みを浮かべて、エイベルに「そうか、なるほど、報告ありがとうアビントン君、するとドイツに入国しているのは間違い無いな、そこから別の場所に行ってしまっていない事を願うしか無いが、どうにか間に合ってくれ」といった。

 ルイス警部が、月曜日にデンマークに到着してから五日経った、六日目の土曜日の早朝だ。デンマーク警察とNCAと英国軍と英国警察の協力下にある捜査機関の英国特別捜査機関での合同捜査の報告会が今始まろうとしていた。この報告会の場所は、デンマーク警察の会議室で行われる事になっている、デンマーク警察の捜査官たちは、普段とは打って変わった面々との報告会なので、少し緊張した様子で、NCAと英国の特別捜査官たちを迎え入れた。二つの英国政府の捜査機関を出迎えたのは、デンマーク警察の肩書のある人たちと今回の事件を担当している捜査官たちだ、その担当している捜査官の中に、オリヴァ・ニールセンは居た。二つの英国政府の捜査機関の人たちが、会議室に入ると、その後に続いて、デンマーク警察の人々が、会議室に入って行った。そして会議室の中には、大きな黒板とその黒板の引き出しには、色とりどりのチョークが入っていて、青白い天井の電灯と大きな丸いテーブルがあり、そのテーブルを前にして、それぞれの機関の人々が席に着いた。席に座ると、直ぐにデンマーク警察の肩書のある一人が、大きな体を支えながら、重い足取りで、部屋の中に居る人々に「それでは、これから捜査会議を始めたいと思います、まずは英国政府の特別捜査官たちの捜査状況の確認から始めたいと思います。それでは、特別捜査官の人たちは、報告をお願いします」といって、軽く会釈をした。特別捜査官の中の二人が、書類の束を持って、各席の人々に資料を配り、黒板の前に立ち、特別捜査官の二人の内の片方が、話し始めた。特別捜査官たちは、熱意があり、興奮した様子で、黒板に沢山の事柄を書き連ねて報告をして、その後はNCAとデンマーク警察の人々の捜査の進展や、今行っている捜査の方法の報告を行った。大分時間が経ち、捜査会議を始める挨拶をしたデンマーク警察の肩書のある人が、部屋の中に居る人々に「これで、捜査会議を終わりにします、ではみなさん引き続き頑張って捜査に当たりましょう」といって、大きな体を二つに折り曲げて、深く会釈をした。部屋の中に居た人々は、がやがやと音を立てて席を立ち、部屋から立ち去って行った。オリヴァは、少し険しい顔をしながら、会議室から出ると、直ぐに今居る階から下の階へと移動して行って、携帯電話を取り出して、誰かに電話を掛け始めた。オリヴァは、辺りを見回し、誰もいない事を確認しながら、誰かに「もしもし、ああ、はい、魚料理店の工場で押収した試験管、ピストル、ライフル、軍用の警棒、軍用のナイフ、外国紙幣に書かれた数字の解読、郵便博物館とパルケン・スタジアムの傍の郵便局に居た不審な人物たち、これらの解析が今行われているみたいで、外国紙幣については、ドイツ紙幣に書かれていた数字は、列車の発車時刻で、犯人たちはもうドイツに入国していると考えているみたいです。ええ…、はい、それから郵便博物館とパルケン・スタジアムの傍の郵便局に居た不審な人物たちの似顔絵が出来上がっているらしく、その似顔絵を一部に公表しているみたいです。了解です…、ルールは忘れて無いです、引き続き何か分かり次第連絡をします、それではまた」といって、携帯電話の通話を切った。そしてオリヴァは、ポケットに携帯電話を滑り込ませると、急いでその場から立ち去って行った。

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