第八章 パリの本屋
暫くして作戦本部に着いた、ルイス警部は、ぼんやりと今回の工場での銃撃戦とデンマーク王立図書館と郵便博物館の二件の盗難事件の事を考えていた。するとルイス警部の上司の部下は、一息つきながら、ルイス警部に「到着しました、ジョナサン警部、それでは私はこの車を駐車場に停めて来ますね。大丈夫ですか?ジョナサン警部?」といった。ルイス警部は、急に我に返り、ルイス警部の上司の部下に「ああ、大丈夫だ、心配無い。それで何の話しをしていたんだっけか?」といった。ルイス警部の上司の部下は、少し驚いた様に、ルイス警部に「いいえ、大した話しはしていませんでしたよ、作戦本部に到着したと言ったんです。それに車を停めて来ますと言ったんです」といった。ルイス警部は、納得がいった様子で、ルイス警部の上司の部下に「そうか、分かった、ありがとう。僕は先に作戦室に行っているよ、では後で」といって、車を降りた。ルイス警部の上司の部下の運転する車は、地下の駐車場へと走り去った、ルイス警部は、作戦本部の中に入るとエレベーターで、上の階へと向かい、作戦室に到着するとコーヒーを入れて、椅子に座り、考え事を始めた。そんな時、捜査官の一人が、ルイス警部に近づいて来て「ジョナサン警部ですね?頼まれていた郵便博物館でフランスに送られた不審な荷物の住所の事を調べました所、同じ住所がデンマーク市内のパルケン・スタジアムの近くの郵便局で使われていました。それから郵便博物館で使われたフランスの住所にフランス警察が急行した所、何の変哲もない本屋があるだけで、何も手掛かりになりそうな事がありませんでした。取り敢えず輸便博物館で使われたフランスの住所の現段階の調べは以上です」といった。ルイス警部は、微笑みながら、捜査官の一人に「ありがとう、助かるよ」といった。捜査官の一人は、軽く会釈しながら、ルイス警部に「何かのお役に立てれば、良いのですが、それでは失礼します」といって、その場から立ち去った。彼はまだまだ若い青年の様な雰囲気をまとっていた。その捜査官の一人の報告を聴いたのは、ルイス警部が、月曜日にデンマークに到着してから二日経った、三日目の水曜日の午後七時少し前だ。
時は、ルイス警部が、月曜日にデンマークに到着する前の先週の土曜日の午後二時頃だ。フランスのパリ市内のある本屋に小包が届いた。そのある本屋は、正面に看板がかけてあり、ガラス張りと緑色に塗られた鉄筋と木造で出来ている、本屋の外にも本棚に本がずらりと並べられていて、気軽に手に取って読める様になっているらしい。本屋の中の様子は、色が塗られていない木造と鉄筋で出来ていて、本棚がいくつもあり、テーブルもいくつもあって、いくつもある本棚の方にも本がぎっしりと詰め込まれている、いくつもあるテーブルでは、本を読める様な空間が設けられている、そして各部屋の天井からは大きなランプが垂れ下がっている。それからこの本屋の二階は、ほんの少しのお金で寝泊まり出来る様な部屋が、いくつか用意されているのであった。郵便配達員は、手に三つの小包と手紙を一つ持って、本屋の店長に「あのう、郵便物です。ここに受け取りの証明のサインを書いて下さい、お願いします」と証明書を差し出しながらいった。店長は、店の奥まった受付の所から、ゆっくりと店の外に居る郵便配達員の所へと向かって行った。そして本屋の店長は、手を耳に当てて、郵便配達員に「何ですか?良く聞こえませんでした。もう一度お願いします」といった。郵便配達員は、立っているその場から身を乗り出して、本屋の店長に「はい、お宅に郵便物を届けに来ました、受け取りのサインをお願いします」といって、再び証明書を差し出した。すると本屋の店長は、合点がいったらしく、郵便配達員に「ああ、今します、ありがとうございます」といって、服の内ポケットから眼鏡を出して、証明書にサインをした。郵便配達員は、帽子を取り、本屋の店長に「どうもご利用ありがとうございました、それでは失礼します」といった。本屋の店長は、眼鏡を取り、両手に郵便物を抱えながら、郵便配達員に「いえいえ、こちらこそわざわざ来て頂いてありがとうございます、本当にご苦労様です。それでは気を付けて」といった。郵便配達員は、本屋の近くに停めてある車に向かってその場を立ち去った。本屋の店長は、郵便配達員が見えなくなるのを待ち、店の正面の扉に閉店の表札を出して、その後直ぐに、受け取った荷物を大切そうにしながら、本屋の奥に進んで行き、奥まった部屋の本棚にある一冊の本を手前に引き、ゴロゴロゴロと音を立てて、本棚をスライドさせて本棚を退かした。本棚を退かした後に現れたのは、扉だった、その扉の傍に付いている呼び鈴を鳴らし、ドアを叩いて、本屋の店長は、大声で「バルリエさん、待っていた荷物が届きましたよ」といった。すると、本棚に隠れていた扉の一部がスライド式の覗き穴の役割をしていて、その部分から人の顔が覗かれた、そしてその現れた顔の主が、本屋の店長に「分かった、助かった、直ぐにこの扉を開ける。少し待っていてくれ」といって、キーガシャン、キーガシャンと音を立てながら、扉が開いた。顔を覗かせた男は、扉を開けて隠し部屋から本屋の中へと入って来た、顔を覗かせた男は、目を輝かせながら、本屋の店長に「いやいや、ありがとう、心待ちにしていたんだ。それでこの荷物を受け取る時に、何かおかしな事は無かったかい?」といった。本屋の店長は、穏やかに顔を覗かせた男に「バルリエさん、大丈夫ですよ。何も妙に思った点はありませんでしたよ」といった。どうやら隠し部屋から出て来た男は、バルリエというらしい。バルリエは、安心して溜め息をついて、本屋の店長に「色々と頼み事をして悪かったね、いやいやとても助かったよ、本当に。では、私はまた隠し部屋に戻るから、何か変に思った事などがあったら知らせてくれ、頼んだぞ」といって、本屋の店長の肩を軽く叩いた。本屋の店長は、穏やかな目をしながら、バルリエに「分かりました、ではまた本当の閉店後に会いましょう」といった。バルリエは、受け取った郵便物の一式を持って、先程までいた隠し部屋へと去って行った。本屋の店長は、本屋の表札を元の開店に直して行った。バルリエは、隠し部屋の中の階段をギギ、ギギと音を出しながら下って行き、一番下の階へと到着した、一番下の階の部屋に到着すると、テーブルの上にゆっくりと慎重に郵便物を置いて、パソコンを引っ掴み自分に引き寄せて、テレビ電話機能を起動させると、椅子にどっかりと座り、テレビ電話の相手の応答を待った。少しばかりして、パソコンに応答があって、パソコンの画面目一杯に相手の姿が見えた、相手は水のペットボトルを傍に置き、机に肘をついて、のびのびとした優雅な出で立ちで、バルリエに「はい、ビヤール。美術品の入手は上手く行ったかね?それとも何か別の報告かね?さあ言ってくれ」といった。バルリエは、真剣な眼差しで、ビヤール教授に「今、ヴァイキング・パワードから今回計画していた、目的のデンマーク王立図書館の歴史的書物とデンマークの郵便博物館の貴重な切手が届きました。まだ中を開けていません、この場でビヤール教授の見ている前で開けようと思います」といった。ビヤール教授は、期待した様子で息を弾ませて、バルリエに「そうか、分かった、さあ郵便物の中を開けて見せてくれ。計画が上手くいったという事を実感したい」といった。バルリエは、まず大きな小包をガザ、ガザと音を立てながら中の物を取り出し始めた。するとそこには古びた大きな厚みのある本が目の前に現れた。バルリエは、ほっとした様子で、ビヤール教授に「どうですか?無事に目当ての物が届いたという事で宜しいでしょうか?この本の題名からしてもデンマークの歴史に幾度も登場する童話の本です、今回の計画は成功したという事で良いですか?」と微笑みながらいった。ビヤール教授は、声を出して笑いながら、バルリエに「これは素晴らしい、本当に素晴らしい事だ、目の前に宝物があるとはね。君はよくやった、凄い事だよ本当に、念の為に僕たちの抱える組織であるトゥルージャスティスの鑑定士によって、今回手に入った美術品を放射線測定法によって、どの位の価値になるかを調べておく事にしよう。この美術品はデンマーク政府によって、ある所から無理に没収された物だから、元のあるべき所に返しておくべきであるし、又この美術品の価値をお金に換えて、僕たちの活動資金にしなければならないからね、しっかりと今回の手に入った美術品を調べよう」といった。バルリエは、とても嬉しそうな顔をしながら、ビヤール教授に「はい、分かりました、これからの活動の事がありますから、きっちりと美術品の価値を分かっておくべきだと私も思います」といった。そしてバルリエは、次に手紙の封筒を開け始めた、すると切手がこじんまりと封筒の中にあり、それをビヤール教授が、見て取れる様に慎重に、ピンセットを使い取り出した。バルリエは、自信に満ちた様子で、ビヤール教授に「切手は、この動物の絵で間違い無いですか?どうです?」と相手の様子を窺う様にいった。その言葉を聞いて、ビヤール教授は、感嘆の溜め息をついて、バルリエに「素晴らしい、間違い無い、その絵が描かれている切手さ、君は本当に大した奴だね、その切手も僕たちの組織の鑑定士に調べて貰おうじゃないか。ううん」といった。バルリエは、安心した面持ちで、ビヤール教授に「では次はどの様にしますか?作戦が上手くいった今、この次のやるべき事はなんでしょうか?ビヤール教授」といった。ビヤール教授は、興奮した様子で、バルリエに「さっきも言ったが、それらの美術品をうちのトゥルージャスティスの鑑定士に見せないといけない、それまで安全な所に保管して置いてくれないか?頼めるかい?バルリエ?」といった。バルリエは、口元に微笑みを浮かべながら、ビヤール教授に「良い隠し場所に心当たりがあります、任せて下さい、前回同様、失望させる事無く、任務を遂行します。ビヤール教授」といった。ビヤール教授は、又しても声を出して笑いながら、バルリエに「良し、今回も君に任せるよ、楽しみにしている、なんたって世界が僕たちを待ち望んでいる、世の中が僕たちの手によって、光満ちた素晴らしい場所へと変わるのを、待っているんだからね。良いね、心してこの任務に当たってくれ」といった。そしてビヤール教授は、バルリエに今回のパソコンによるテレビ電話での話し合いの終了を告げた。バルリエは、名前はクリストフ・バルリエという名で、フランス空軍士官学校を卒業後、フランス空軍での階級の准将を取得、その後フランス空軍の特殊部隊である空軍第十落下傘コマンドー(CPA10)に選抜され、そこで多くの戦闘技術を学び、その戦闘成績はとても高く、普段は空軍基地で指揮を執っているが成功率が低い任務時は、空軍第十落下傘コマンドー(CPA10)の隊員として駆り出されている。歳は四十歳であり、フランス人である。髪の色は、ブロンドで、前髪を九対一の割合で分けている。髭を鼻の下の口髭だけ剃らずに生やしている。目の色は茶色である。クリストフ・バルリエの服装は、上半身がベージュ色のジャケットで、その下に水色のワイシャツを着ていて、ジャケットの左胸ポケットにワイシャツと同じ水色のハンカチを入れている。そして下半身は濃い青色のジーンズのズボンを着ていて、ジーンズの裾を少しだけ折り返している。ベルトは、網状のベルトをしている、靴は茶色の革靴を履いている。それから左腕に腕時計をしている。
ビヤール教授は、バルリエとパソコンでの会議を終えると、パソコンの画面を今日の予定が記載されている画面へと切り替えた。するとビヤール教授は、思っていた通りに午後三時半からレナエル・エマールとアフタヌーンティーよりも少しだけ遅いお茶会をする事になっていた。今は午後二時四十五分だ、今からだと午後三時半には間に合わない、仕方無いエマールに電話をして、少しばかり遅れる事を告げようと心の中で思った。ビヤール教授は、エマールに電話を掛けてみた、すると直ぐにエマールが電話に出た。ビヤール教授は、慌てた様子で、エマール博士に「ああ、エマールかい?僕だよビヤールさ、今日の約束していたお茶会の事なんだけど、予定の時間には間に合いそうにないんだ。少し時間を遅らせて午後四時少し前にするのは駄目かなと思って電話をしたんだ、どうかな?エマール?」と電話をした。エマール博士は、快活な感じで、ビヤール教授に「そうねぇ、いいわよ、但し、私のデザートの為の時間を設けるのよ。良いわね、ビヤール、それで今日は何で遅れてしまいそうなの?教えて、かなり前から楽しみにしていたのよ、軽い食事を一緒にして、語り合う時間が設けられるって、そう思っていたのよ」と電話をした。ビヤール教授は、済まなそうな声音で、エマール博士に「僕もそうさ、エマール、君とのゆったりとした時間を以前から楽しみにしていたさ。デザートの件は大丈夫だよ、きっちりと時間を取ろう、それから今回遅れたのは仕事が長引いてしまってね、それでなんだ。悪い事をしたね、でも今日はこの後の予定は特に無いから一晩中だって、君と一緒にいられるよ、エマール、たっぷり語ろうじゃないか。それで機嫌を直してくれないかな?エマール?」と電話をした。エマール博士は、明るい声で、ビヤール教授に「仕方ないわね、ビヤール、それで良しとするわ。その代わりに、言ったからにはしっかりと、語り合う時間を取る事よ、それも満足するまでよ、先程ビヤール、あなたが言った様に、一晩中でもよ、良いわね」と電話をした。ビヤール教授は、楽しそうな声の抑揚で、エマール博士に「ああ、もちろんさ、エマール。君の望む様に、しっかりと語り合いながら、食事をしようじゃないか。それでは後で、エマール、これから直ぐに用意して、急いでこれから食事をする店の前に行く事にするよ、じゃあ待ち合わせの場所で、電話を切るよ。会うのを楽しみしているよ、エマール」と電話をした。エマール博士は、軽やかな口調で、ビヤール教授に「ええ、私も楽しみにしているわ、じゃあ待っているからね。ビヤール」と電話をした。そしてビヤール教授は、エマール博士との電話でのやり取りを終えると、直ぐに出かける仕度を始めた。暫くして、準備が整うと、ビヤール教授は、英国のマイアパートメントハイストリートケンジントンにある自分の家を後にした。そしてビヤール教授は、地下鉄に行き、電車に乗って、待ち合わせ場所へと向かった。ビヤール教授は、待ち合わせ場所の最寄り駅に電車が停車すると、直ぐに降りて、小走りで地上に出た、するとロンドンの街並みの様子は、今は春なので冬よりも、日が長くなり、降り注ぐ陽によって、現れる影の長さが、冬よりも短くなっている。そして又街を行きかう人々にも陽が降り注ぎ、人々に温かさ、視界の明るさを与えている。春によって、生み出された木々の緑色の葉が、陽の光を受けて、実際の濃い緑色よりも、明るい黄緑色に輝いている、そんな中で人々が、ロンドンの街を歩いているのだ。少し足早に歩くと、体が温かくなる様な位の温かさに、空気が陽の光で温められている。ビヤール教授は、腕時計を見て、少しばかり口元に微笑みを浮かべて、彼は時間に余裕があると心の中で思ったが、でも最初の約束からは、とても遅い時間だと、思い返して、これ以上は遅れられないぞと思った。ビヤール教授は、小走りしながら、目的の場所の店の前に向かった、すると店の前にエマールが居るのが見えて来た。エマール博士もビヤール教授の姿が目に入ったらしく、手を大きく振りながら、ビヤール教授に「ここよ、ビヤール、早く早く、急いで、お腹ペコペコよ」といった。ビヤール教授は、満面の笑みで、エマール博士に「ごめん、ごめん、待たせたかい?エマール?」と走りながらいった。エマール博士は、微笑しながら、ビヤール教授に「大丈夫よ、お腹いっぱいに食べたら、何もかも上手くいくわよ、きっと、ビヤール。さあ、このインド料理のお店に入りましょう」といった。ビヤール教授は、何か予想をしていなかった様で、はっとした様子で、エマール博士に「うわぁ、インド料理か想像もしてなかったよ。とても楽しみだな、インド料理はあまり食べた事ないなぁ、どんな料理が出て来るんだろう」といった。エマール博士とビヤール教授の二人は、インド料理店の中へと入って行った。 インド料理店の正面は、石造りで出来ていて、まるでギリシャ彫刻の様な出で立ちで、力強さを連想させる建物であった。そのインド料理店の中は、青い布と茶色の木で出来ている椅子と赤色のシャンデリアそして白いテーブルクロスが被せてあるテーブルがいくつもきっちりと整頓されて並んであり、そのテーブルの上には、透明なワイングラスと銀食器のスプーンとフォークが置いてあるのであった。インド料理店のウェイターが、エマール博士とビヤール教授を見つけると、ゆっくりとした足取りで、顔には微笑みを浮かべながら、柔らかい視線を二人に注ぎながら、近づいて来た。ウェイターが、エマール博士とビヤール教授に「お二人で宜しいでしょうか?」といった。エマール博士とビヤール教授は頷いて、そのままウェイターに案内されて席に着いた。そしてウェイターは、エマール博士とビヤール教授に「ご注文が決まりましたら、声を掛けて下さい」といって、その場を立ち去ろうとした。するとエマール博士が、引き留めて、ウェイターに「もう注文したい食事が決まっています、チキンティッカマサラのセットを二つお願いします、それから飲み物は、炭酸水をお願いします」といった。ウェイターは、メモを取りながら、エマール博士に「それではご注文は以上で、宜しいでしょうか?」といった。エマール博士は、ウェイターに「はい、以上です」といった。ウェイターは、厨房の方へと消えて行った。エマール博士は、息を弾ませながら、ビヤール教授に「料理の事は、私に任せてくれるかしら、ここのお店の評判の良い料理を注文してみたんだけど、それで良いかしら?ビヤール」といった。ビヤール教授は、にこやかな顔をしながら、エマール博士に「ああ、それで良いよ、エマール、君に全て任せるよ。なにせインド料理の事は何一つ分かっていないからね。エマール、君の事だから料理のセンスに関しても間違い無いよ」といった。エマール博士の名前は、レナエル・エマールという名で、ビヤール教授と同じパリ大学出身で、理系で、生物科学と工学に関しての知識は、一流である。フランス人である。目の色は、ヘーゼルで、ライトブラウンとダークグリーンの中間の色である。髪の色は、ブロンドで、髪型は、ボブヘアーである。仕事は、生物科学と情報科学に、特化している民間の研究所に勤めている。勤めている研究所の名前は、トート研究所である。歳は二十三歳である。レナエル・エマールの服装は、LENERのコートを脱ぐと、現れたのは、上半身は、白いボウタイブラウスの上に、白いCHANELのカーディガンを着ていて、下半身は、黄色いスカートを着ていて、明るい茶色のベルトをしている。足には、黒いバックベルトサンダルを履いている。少しばかりして、注文していたチキンティッカマサラがライスと一緒に、エマール博士とビヤール教授の席に運ばれて来た。ウェイターは、エマール博士とビヤール教授に、注文は以上であるかを確認すると、エマール博士とビヤール教授のテーブルから離れて行った。チキンティッカマサラの良い香りが、エマール博士とビヤール教授の席いっぱいに漂っている、エマール博士は、目一杯息を吸い込み、ビヤール教授に「ああ、美味しそうな香りだこと、食欲が湧いてくるわね、さあ食べましょうか。ビヤール」といった。ビヤール教授は、よだれが垂れそうになるのを必死に抑えて、エマール博士に「そうだね、とても旨そうな料理だね、じゃあ早速食べようか、エマール」といった。チキンティッカマサラは、英国では国民的食事で、鶏ムネ肉をヨーグルトとパウダースパイスを数種類ミックスした物に漬け込んで、タンドゥールオーブン(壷窯型オーブン)で焼いたものである。暫くして、チキンティッカマサラとライスを食べ終えると、エマール博士は、テーブルの上に置いてあるナプキンで口をゆっくりと拭きながら、ビヤール教授に「ふぅ、美味しかったわね、異国の料理を食べるのは、とても楽しいわね。どんな味が楽しめるのかと考えたりしながら、新しい発見があったりして、本当に美味しかったわ、それでは空腹を満たした事だし、最近の私たちの近況報告を話し合いましょう。ビヤール」といった。ビヤール教授は、待っていた様子で、エマール博士に「そうだね、食事も終わった事であるし、これからケンジントン・ガーデンズに行って、そこで散策しながら、お互いの事を話し合うのは、どうかな?今の季節の花々がとても綺麗に、見る事が出来ると思うんだよ。どうだい?エマール?」といった。エマール博士は、声を高く出し、少し大きな声で、ビヤール教授に「ええ、賛成だわ、ビヤール。春の季節を感じながら、一緒にお話しをしましょう、とても名案だわ」といった。ビヤール教授は、満足した様子で、エマール博士に「喜んで貰えて、凄く嬉しいよ、ではこれからケンジントン・ガーデンズに向かう事にしよう、エマール」といった。エマール博士とビヤール教授は、食事の代金を払うと、インド料理店を後にして、地下鉄へと向かい、ケンジントン・ガーデンズの最寄り駅であるハイ・ストリート・ケンジントン駅まで電車を乗って下車した。地下鉄から地上に上がると、そこにはレンガ色の建物の駅がそびえ立ち、レンガ色の建物と並んで、色々な種類の建物が立っている、その建物の至る所に広告が張り巡らされ、その建物の中には沢山のお店が入っている様子である。この駅は日差しがとても気持ちの良い程度に降り注ぎ、明るく照らされていて、駅の周りの建物も光に包まれている。駅の近くには人々が溢れ返り、その人々の中には観光客も多く居ると思われ、沢山の車も走っていて、駅の正面には赤色の二階建てのバスが停まっているのが、目に入って来た。三つの大型百貨店が十九世紀にオープンした事から始まった高級ショッピング街のここハイ・ストリート・ケンジントンは、ロンドンの西部地区に広がる活気に満ちた多数の芸術に関するお店や高級百貨店が立ち並ぶ場所として有名なのである。エマール博士は、目を大きくしながら、ビヤール教授に「もしかして、ビヤール、ここハイ・ストリート・ケンジントンという所は、あなたが良く知っている街じゃないかしら?」といった。ビヤール教授は、少し胸を張った様子で、エマール博士に「そうなんだ、僕はちょっとばかりこの街の事に詳しいんだよ、だから案内は僕に任せておいてね、エマール、君につまらない思いをさせないからね」といった。エマール博士は、にっこりと微笑みながら、柔らかい視線を注いで、ビヤール教授に「とても頼もしいわね、ここ英国に感化されて騎士道精神が表に出て来たのかしら、凄く嬉しいわ、ビヤール」といった。暫く歩くと、エマール博士とビヤール教授は、ケンジントン・ガーデンズの入り口に到着した、エマール博士は、生き生きとした様子で、ビヤール教授に「ここがケンジントン・ガーデンズね、とても大きくて、広そうな公園ですわね。ビヤール」といった。ビヤール教授は、少し気取った感じで、エマール博士に「ここは、古い歴史と伝統がある公園で、しかもロンドン市内の公園で一番の大きさなんだよ。エマール、さあ早速、中に入ろう」といった。ケンジントン・ガーデンズの中に入ると、最初に見えるのは、幅が広くて、長い道が真正面にずっと伸びていて、緑色の葉を付けている木々がその道の横に、天に向かって伸びている、地面は緑色の芝生で覆われているのが分かった。そのままエマール博士とビヤール教授は、ケンジントン・ガーデンズ内の中へと、歩いて行った。すると綺麗な色の植木がうっそうと茂っているのが見えて来て、その植木は明るい赤色の花、黄色の花、白っぽい色の花、赤紫色の花があるのが分かった。この植木の花々は、茎や葉っぱの部分がもじゃもじゃしていて、ちくちくしている棘があるのが分かった。この植木は、花壇に植えられているのでは無く、芝生の上に植えられているのであった。ビヤール教授は、優し気な表情と口調で、エマール博士に「ねぇ、エマール最近はどんな研究をしているのかね?教えてくれないか、何か面白い発見はあったかい?」といった。エマール博士は、質問を待っていた様子で、ビヤール教授に「まあ、私の研究に興味を持ってくれているの?」といった。ビヤール教授は、期待に満ちた様子で、エマール博士に「もちろんだよ、エマール、君の研究はとても世の中の役に立ちそうな、そんな研究をしているからね、それはとても素晴らしい事でしょう?是非とも聞かせてくれ」といった。エマール博士は、得意げな様子で、ビヤール教授に「それはとても嬉しいわ、では私が勤めているトート研究所の研究については、話せ無いけれど、私自身が考えている研究についてだったら、話せると思うわ」といった。ビヤール教授は、興奮している様子で、エマール博士に「ああ、君の事なら何でも聴きたいんだ。それに君の研究はどの研究についても、僕はとても価値のある事だと考えているんだ」といった。エマール博士は、真剣な表情になって、ビヤール教授に「私は、今海底や海の中で浮遊している微生物を使って、人に対する薬を創ろうと考えているのよ、海底や海の中に居る微生物は、地上に居る微生物の三倍以上の数の微生物が存在しているの、その微生物を使って、抗生物質や栄養剤などの薬を創ろうと考えているのよ。なんたって海底や海の中に浮遊している微生物の多くがまだ謎に包まれているの、そこで私は人体に有用な物質が出来る様に、微細なアンドロイドを操作して、海の微生物が作り出す、遺伝子レベルでの有用な物質の産出を大量に手に入れたいと考えている所なのよ。アンドロイドだったら、途中で死滅してしまったりして、折角産出された物質を無駄にせずに、有用な物質の量を調節して入手出来ると思うの」といった。ビヤール教授は、楽しくてたまらないという表情で、エマール博士に「素晴らしいね、エマール、実は僕もね、微生物に関心を寄せているんだ。水中に居るシアノバクテリアを利用して、グリーランドの氷河を溶かして、その氷河に埋もれている資源を掘り起こしたいと考えているんだ。このグリーンランドには、沢山の原油や、ウラン、アルミ、ニッケル、プラチナ、タングステン、チタン、銅が眠っているみたいなんだ、その資源を世の中の為に使いたいんだ」といった。エマール博士は、瞳の中にキラリと光の輝きを見せて、ビヤール教授に「あなたって、とても素敵ね、凄く世界の事を考えていて、平和や幸福を願っているのね。私はあなたのそういう所、とても好きだわ」といった。ビヤール教授は、温かくゆったりとした表情で、エマール博士に「そうかい、そう言ってくれると、僕も何か救われた気分になるよ。人の為になる様に努力をしているんだけれど、ためになってくれるかどうか分からないからね、君に世界の為にやっていると分かって貰えて、そして僕の活動を好きだと言ってくれて嬉しいな、エマール」といった。ビヤール教授とエマール博士の二人は、話しに夢中になっていると、ケンジントン・ガーデンズの奥の方まで、歩いて来ていて、ケンジントン宮殿の建っている場所まで来ていた。そして、少し足を延ばしケンジントン宮殿の近くにある花々が咲き誇るケンジントン宮殿のサンクンガーデンに、二人は到着した。
ここケンジントン宮殿のサンクンガーデンは、長方形の池に噴水が備え付けられていて、花壇には春の季節なので、チューリップやストック、パンジーなどの色々な種類の花が植えられている。この花々は、長方形の池の周りに幾つもある花壇に植えられていて、その植えられている花々の色は、赤色や紫色、ピンク色、黄色、白色という明るい綺麗な色を見せていて、色とりどりに花壇に植えられている花々の途中に、穏やかさを出す為か、茶色の鉢植えに綺麗な緑色の植木が植えて置いてあるのである。そして、長方形の池の噴水が水面をさらさらと打つ音が、上品な雰囲気を辺りに漂わせている。ビヤール教授は、柔らかい視線を注ぎながら、エマール博士に「なんだか、気分が安らぐ様だね、エマール。そこら中に咲いている花も、丁度良い具合いに、色が並んでいるね、そうは思わないかい?」といった。エマール博士は、優雅な口調で、ビヤール教授に「そうね、とても気分が和やかになるわね、それにどの花壇を見ても、芸術的な色合いを見せているわ、まるで虹を連想させるわね。噴水があるのだから、本物の虹も見られるかもしれないわね、ビヤール。あなたはどう思う?」といった。ビヤール教授は口元に微笑みを浮かべながら、エマール博士に「そうだね、心が洗われる様な、そんな気がするね。虹なんて最近見ていないな、是非ともこの機会に見ておきたいなぁ。ね、エマール、どうだい?」といった。エマール博士は、サンクンガーデンの池に手を入れながら、ビヤール教授に「そうよ、虹を見ましょうよ、虹が見えると、今日一日何か良い事が起こるかもしれないわ、ビヤール」といった。ビヤール教授は、瞳にキラッと輝きを映し出しながら、エマール博士に「そうだね、じゃあ、虹を見てお願い事でもしようか」といった。暫くエマール博士とビヤール教授は、長方形の池の直ぐ傍に、ぼんやりと立って噴水を眺めていた。すると、池にある三つの噴水の上に薄っすらと、七色の半円が空中に描かれた、それは明らかに虹であった。エマール博士とビヤール教授は、はっとなりお互いの顔を見合わせた、そして二人は「虹だ!」と叫んだ。暫くその三つの虹が噴水の上で、水しぶきを受けながら、綺麗に輝いているのを見ていた、それから二人は、目を閉じてお願い事をしたのだ。そしてビヤール教授は、にこやかな表情をしながら、エマール博士に「では、これから少しばかり童話の世界に入ろうよ、是非エマール、君に見せたい物があるんだ。僕に付いて来てくれるかい?」といった。エマール博士は、ビヤール教授の組んでいる腕に自分の右手を載せて、ビヤール教授に「ええ、良いわ、何を見せてくれるのか、楽しみだわ。期待しているわよ、ビヤール、良い?」といった。二人は、少し遠くまで歩いて行った、するとそこには、沢山の電球がチカチカと点滅しながら、回転木馬や玩具の馬車が勢いよくぐるぐる回っているメリーゴーランドが現れた。ビヤール教授は、身を乗り出しながら、エマール博士に「どうかな?気に入って貰えたかな?」といった。エマール博士は、両手を口に当て、ビヤール教授に「まあ、なんて素敵な場所でしょ、森の中にあるとちょっとした楽園という所かしら、ええ、気に入りましたわ、それもとってもですわ」といった。ビヤール教授は、息をふうっと吐いて、エマール博士に「良かった、もし気に入って貰えなかったらどうしようか考えていた所だったんだ、でもその心配はもういらないね。エマールさあさあメリーゴーランドに乗ろうじゃないか」といって、エマールの手を曳いた。エマール博士は、小走りしながら、ビヤール教授に「賛成よ、ビヤール、さあ急いで乗りましょう」といった。ビヤール教授は、遅ればせながらも走って、エマール博士に「速い速い待ってくれよ。置いて行かないでくれ」と笑いながらいった。丁度メリーゴーランドの一回分の回転を終えた所だった様で、お客様たちがメリーゴーランドから降りて来た、そしてエマール博士とビヤール教授は、タイミングが良くメリーゴーランドの玩具の馬車に乗り込んだ。エマール博士は、息を弾ませながら、ビヤール教授に「ここよ、これこれ、二人で乗れる馬車にしましょう。木馬だと一人一人にばらばらに乗らないといけないわ、それだとつまらないもの、良いでしょ?折角なんだから一緒に乗りましょうよ、ビヤール?」といった。ビヤール教授は、少し慌てふためきながら、エマール博士に「分かった、一緒に乗らせて貰うよ、誘ってくれて嬉しいなぁ」といった。そうこうしていると、メリーゴーランドの運転が始まり出した。エマール博士とビヤール教授は、玩具の馬車にしっかりと掴まりながら、ビューン、ビューンと風を切り、二人は「うわぁ、うわぁ」と叫びながら、回った。二人は、玩具の馬車の中から空を見上げた、段々陽が陰って来ているのが分かった、夕日が綺麗に青い空にオレンジの色を差している、まるで夢の中にいる様な気分で、空を飛んでいる感じがした。メリーゴーランドの運転が停まった、回っている間の時間が凄く短く感じた、エマール博士とビヤール教授は、少しふらついている感じで、よろけながら、メリーゴーランドから降りた、すると二人は、地面に力なく腰を下ろして、遠くを眺めた。エマール博士は、ぼうっとしながら、ビヤール教授に「とても楽しかったわね、又来ましょうよ、一緒に、そして絶対に。何か頭の中が晴れ晴れしているわ、あなたはどう?ビヤール?」といった。ビヤール教授は、軽やかに笑い声をあげて、エマール博士に「ああ近いうちに、絶対に一緒に来よう、約束だよ、エマール」といった。エマール博士は、ちらっと横目でみながら、ビヤール教授に「そうよ、ビヤール、これは守らなければいけない約束よ」といった。ビヤール教授は、近くに咲いている野花を一輪掴みとり、その花で指輪を作り、エマール博士に「なあ、エマール、僕たちの将来の事なんだけど、一緒に同じ家に住み、同じ食事を食べて、同じ夢を見て生きて行かないかい?レナエル・エマール、僕と結婚してくれないか?」と花の指輪を差し出しながらいった。エマール博士は、頬を赤く染めて、指輪を嵌めて貰いながら、ビヤール教授に「ええ、エミリアン・ビヤール、その申し出をお受けしますわ、一生一緒に生きて行きましょう」といって、二人はお互いを抱きしめ合い、キスをした。
ルイス警部が、月曜日にデンマークに到着してから三日経った、四日目の木曜日の午後一時少し前だ。場所は、デンマークのとある大学の講義室、この講義室の中は、これから始まる講演を聴く為に集まった人々でいっぱいになっている。人々は、がやがやと賑わいながら、講演者がどんな話しをしてくれるのかと、思いを膨らませながら待っているのだった。集まっている人々は、講演会場である大学の学生から他大学の学生、他国の大学の学生、働いている人、これから老後を考える位の老人などの人たちが、男女問わず講義室にひしめき合って席に座っている。もしかすると立ちながら講演を聴く人も出て来るのではないかと思われる位だ。講演の時間がお昼位の時間帯なので、講演を聴く人々の中には、軽い持ち運びが出来るパンやサンドイッチなどの食べ物を口の中に押し込み、急いで飲み物で流し込んでいる人々もいる。講演者は、エミリアン・ビヤールという人物で、フランス人の男性で、フランスのパリ大学の出身者である事と彼はとても世界的に有名な哲学者であるので、なかなか講演会に出席する事が出来ないという理由で、聴講者たちは講演会に出席出来るだけで幸運であると考えているので、講演の時間帯に体の具合いを必死に合わせて来るという次第である。講義室には、太陽が丁度良い具合いに、降り注ぎ、講義室の中を光でいっぱいに満たしている、講演会場の大学は、デンマークの大学なので、おとぎ話しに出て来る様なお城の風貌で、講義室のガラス窓はステンドグラス宛らで、そのガラス窓を通過する陽の光はまるで北極や南極で見られるオーロラの様である。男女二人の若者が慌てて講義室に入って来た、ソフィアは、カールの手を掴みながら、カールに「急いで!カール、座る席が無くなるわ。ほらほら、急いで」といった。カールは、腕を引っ張られながら、ソフィアに「ああ、分かっているよ、でもそんなに速く走らなくても、大丈夫さ。このまま行くと転んでしまいそうだよ」といった。ソフィアは、緊迫した様な状態で、カールに「駄目よ、そんなのんきな事を言っていては、この講演者は人気があるのよ、直ぐに席なんて埋まってしまうわ。ああ、こっちよカール、ここに二人座る場所があるわ」といって、カールの腕を力任せに引いた。カールは、顔を歪めながら、ソフィアに「ああ、痛いよ、ソフィア、もう少し優しく引っ張ってくれ」といった。ソフィアは、カールの言葉なんてお構い無しに、カールに「さあ、そろそろ始まりますよ、準備は良いわね、カール、メモ用紙と筆記用具を持って、講演の話しを書き留めるわよ。さあ、カール、メモの準備よ、急いで」といった。カールは、渋々持って来た鞄をごそごそしながら、メモ用紙と筆記用具を取り出した。少しして丁度午後一時だ、人々の熱い熱気で、燃える様な講義室に、一人の若い男が、いくつかの本とパソコンなどの機材を持って入って来た。その男は、人々の歓声と拍手で迎えられた。するとその男は、席に座っている人々に一礼をして、「僕は、エミリアン・ビヤールです。合理主義哲学を専門にしている教授です、今日は、これからの人生をどの様に生きていくかを議題として、お話しをしていきます。僕は、今日の講演会場であるこの国のデンマークのヴァイキングとこれから話す生き方には、とても近い物があると考えています」といった。講演者のエミリアン・ビヤールは、とても魅力のある人物で、聴いている人々を魅了しているのが、誰にでも分かる程だった。彼は、黒板に色々な言葉を書き記し、その言葉の指し示す事柄を丁寧に教えるのであった。聴講者は、真剣で険しい顔をして、瞳の中に輝きを見せて、一生懸命講演内容を聴いて、話しの内容をノートに書いたりしている。講演を始めて、大分時間が経った頃、又しても興味深い言葉を黒板に書き記した。その言葉は、『信頼を獲得する旅、そして財産を築き分かち合う事』であった。ビヤール教授は、真面目な顔をして、聴講者たちに「僕が今書いた言葉は、君たちデンマーク人の祖先であるヴァイキングの生き方を表している言葉です。ヴァイキングは、北欧の伝説であるゲフィオンの様に農場を持って一人前になる為に、色々な仕事をして生きて来ました。その仕事の内の一つである商人とは、自分たちの集落の傍の地域を行商しながら物々交換や貿易などを盛んに行う仕事で、具体的には欲しい物との交換でしたね。次に仕事の一つである海での漁師活動についてです。この漁師という仕事は、自分たちが住んでいる社会からヴァイキング船を操り船出して、他の世界に遠征して行き、魚を取るという生きる為の活動でした。この様に今自分たちが、暮らしている場所から別の場所に赴き生きる活動をする事が、重要な事なのです。では、その別世界に行っての活動とは、どんな活動なのかというと、君たちの国、デンマークは、とても安定していて、福祉活動が国全体に広がっていて、とても住みやすく平和な国です。その平和を他国にも教えて行くというのは、どうでしょう。このデンマークという国の素晴らしさを教え、広めて、他国を一つでも、デンマークの様な状勢や経済にして行き、デンマークの様な平和で安全な国を一つでも多く築き上げて、その築き上げた国々が、お互いに協調して大きな集合体になり、全世界を平和で包むという事を成し遂げましょう。さあ、デンマーク人の祖先ヴァイキングの諸君、海に出て狩りに行きましょう。今日の講演は、これで終わりにしたいと思う。先程配ったパンフレットに書いてある、パソコンのEメールアドレスに、沢山の意見を寄せて欲しい、出来る限り返事を書くよ。では、今後開催される講演会か、ホームページで会いましょう」といった。講演は、ビヤール教授の素晴らしい響きの言葉の投げ掛けで終わった。聴講者たちは、活気のある興奮した、そして満足した表情で、座っていた席を立ち、その場からゆっくりと腰を上げて、会場を去って行くのであった。ソフィアは、喜びが溢れ出しそうな表情で、カールに「ああ、この講演は、とても私たちの為になる事、間違い無しだったわね。早速行動に移さないといけないわ、カール」といった。カールは、満足げな顔をして、ソフィアに「良かったね、この講演を楽しみにしていたんだろ?君が喜んでいて、とても嬉しいよ。確かあの教授は、ホームページとか言っていたよ、直ぐにでもそのホームページに行ってみるのが良いよ、ソフィア」といった。ソフィアは、カールに「ビヤール教授でしょ、あの教授じゃないわ。そうね、ホームページと後、これからある講演会があるとか何とか、言っていたわね。調べてみましょうね、カール、これからこの私たちが住んでいるデンマークの事を色々と世界に発信しないといけないわね。その前に、ここの大学の学食で、少し遅いティータイムをしましょう、コーヒーでも飲みましょうよ」といった。カールは、ソフィアに「そうだね、良い考えだ、まだ講演の興奮が消えないよ。このまま興奮した気分でいると、浮足立って、怪我をするかも知れないからね、コーヒーでも飲んで、気分を落ち着かせよう、ソフィア」といった。二人は、持って来た鞄にメモ用紙と筆記用具をしまい、鞄を大事そうに持ちながら、講演会場から立ち去って、大学の学生食堂に向かった。階段を数回下りると、学生食堂に二人は到着した、学生食堂は、凄く大きく開けた所で、陽の光が良く入り、天井にある照明もあり、光に満ちていて、とても明るかった。そしてテーブルや長椅子が大量にあって、壁際には沢山のお店が入っていて、その直ぐ傍に自動販売機が並んでいた。学生食堂は、やはり先程の講演を聴いていた人たちで、溢れ返っていた。カールは、少し不貞腐れた顔をして、ソフィアに「ええ、また人だらけか、さっきも人でごった返していたよ。やだな席を見つけるのに一苦労だな」といった。ソフィアは、辺りに集中しながら、カールに「大丈夫だから、まあ、待ってて、私が直ぐに席を確保するわ。ほら、あそこ、良い?カール、人のいないテーブルが見えるでしょう。今からあそこに一直線よ、さあ、走ってカール」といって、襟首を掴んだ。カールは、引きずられながら、ソフィアに「うわぁ、気を付けてくれよ、なんたって人でいっぱいだからね、何か物や人にぶつからない様にしてくれよ」といった。二人は、どうにか空いているテーブルに席を確保する事が出来た。少しばかりして二人は、学食の熱いコーヒーをゆっくりと、少しずつ飲み始めた、ソフィアは、優し気な表情で、カールに「ああ、美味しいわね、ここのコーヒー、そう思わない?カール?」といった。カールは、先程とは打って変わって、余裕な感じで、ソフィアに「うん、旨いし、なんだか落ち着いた気分になれるよ」といった。暫くの間、ソフィアとカールは、学生食堂でゆったりと時間を過ごした。段々と辺りに居た人たちが、食事を終えて、立ち去って行き、どんどん人がいなくなっていった。しかし、講演会に居た多くの人々が帰っただけで、普段から使用している、ここの講演会場の大学の学生らしい人々が、まだ至る所に散らばりながら、席を埋めている。ソフィアとカールは、コーヒーを飲み終えると、その場から立ち去り、大学の建物から外に出た、すると当然の事だが、朝よりも陽が傾いていて、その陽の光が淡いオレンジ色になっていた。陽の光がソフィアとカールを照らして、視界が光で見えにくい程輝かせていた、二人は地下鉄に急いで行き、帰宅の経路を目指した。二人の内のソフィアの家の最寄り駅が近づいて来た、ソフィアは、少し疲れが出た様子で、カールに「あら、もう私の降りる駅だわ、それじゃ、またねカール、家に着いたら連絡するわね。早速ビヤール教授のホームページに行って活動を始めないとね、カール、世界が私たちデンマーク人の生き方を教えて欲しいと、期待して待っているに違い無いわ。あっ、駅に着いたわ、またね」といった。カールは、眠そうな顔をしながら、ソフィアに「そうだね、ソフィア、直ぐに活動を始めないとね。連絡を待っているよ、ソフィア」といった。カールとソフィアはキスをして、ソフィアは電車から降りて去って行った。カールは、少しばかり電車に揺られていると、自分の最寄り駅に到着した、そしてあくびをしながら、電車の開いたドアを通り抜けて、車両から外に出て、階段を上り、地上に出た。それからカールは、歩きながら帰る事にした。バスでも帰る事が出来るのだが、歩いても帰る事が出来る距離なのだ、ぼんやりとした足取りで、家に帰って行った。
ほんの少しの時間が流れると、カールは自分の家の前に居た、カールは「良し着いた、部屋に行ったら、今日聴いた講演者の教授に連絡を取ってみないとな、まあ、これから何をするか、ソフィアと相談すれば良い」とつぶやいた。するとカールの携帯電話に、ソフィアから帰宅したという連絡があった、時間が出来次第また連絡するという内容のEメールだった。カールは、ポケットから家の鍵を出すと、ドアの鍵穴に差し込み、回して、家の中へと入って行った。そしてカールは「只今、帰ったよ」とつぶやいた。すると、家の中からカールに「あら、お帰りなさい、カール」とイザベラの声で、返事が返って来た。カールは、驚いた様子で、イザベラに「義姉さん、もう帰っていたの?今日は早いんだね、何かあったの?」といった。台所に居ながら、イザベラは、はっとして、カールに「そうだったわね、カールには言っていなかったわね。私の働いている“デニッシュ工房”の店長に言われて、今新しいパンのレシピを考えているから手伝って欲しいと言われたのよ、その手伝いっていうのが、新しいパンの味がお店に出せるかどうか、意見を聴かせて欲しいという事なのよ。味見してみて、何かもっと工夫した方が、良い事とかあれば教えて欲しいという事なの、今日は改善点などを考える時間が必要かも知れないから、早く帰って良いって、店長に言われたの。だから今、ここに私がいるのよ」といった。カールは、合点がいった様子で、イザベラに「なるぼど、そうだったのか、じゃあ、もしかすると義姉さんのお店のパンを食べられるって事なの?なんか楽しみだな」といった。イザベラは、カールに「そうよ、みんなで食べましょうね、オリヴァが帰って来たら食べましょう。さっきオリヴァに、今日はなるべく早く帰って来て、と連絡しておいたわ。だからもう直ぐ、帰って来るわ、さあ、カールもパンの試食会の用意を手伝って頂戴」といった。大分時間が流れた、カールとイザベラは、パンを食べる用意を整え終えた。丁度良い具合いに、家の呼び鈴が鳴り、オリヴァが、家のドアを開けて家の中に向かって「今帰ったぞ、うむ、良い香りがするな。今日食べる予定のパンの香りかな、みんな何処にいるんだい?」といった。イザベラが、手をタオルで拭きながら玄関前に立ち、オリヴァに「お帰りなさい、オリヴァ、帰りが夕食時になると思って、沢山パンを頂いて来たわよ。手を洗って来てね、直ぐに食べましょう」といった。オリヴァは、にこやかな微笑みを口元に浮かべて、イザベラに「只今、イザベラ、そうだね、洗面所に行って、手を洗って来るよ」といって、イザベラとオリヴァはキスをした。そしてオリヴァが家の廊下を歩いていると、カールが来て「お帰り兄さん、今日も一日ご苦労様」といった。オリヴァは、カールに「ああ、カール、只今、今日は確か何かの日じゃなかったか?楽しめたか?」といった。カールは、瞳の中にキラリと輝きを映し出し、オリヴァに「そうそう、今日はソフィアと哲学の講演会に行ってきたんだ。いやぁ講演者の教授の言っている事がとても心に響いたんだよ、それはそれは、凄くてね。兄さんもその場に居たら感激したさ、それでその講演者の教授と連絡を取ろうと思ってね、パンを食べた後に、ソフィアとその事で話そうと言っているんだ」といった。間も無くパンの試食会が始まった、カールは、試食中に、今日の講演会の事をオリヴァに、一部始終話して聴かせた。カールは、活気づいた興奮と満足している様子で、オリヴァに「本当に、凄い話しでしょ、兄さん、こんな話し普段じゃ聴けないよ。俺はソフィアと二人で講演を聴けて幸運だったんだと思うよ、でもね兄さん、話しはこれで終わりじゃないんだよ、講演をした教授のホームページがあってね、そこに行って、教授と兄さんも連絡を取ってみないかなと、俺は考えたんだけどどうかな?講演会でのメッセージはデンマークの事を世界に広めて行き、より良い世界にする活動だからね。兄さんも参加出来るんじゃないかなって思っているんだよ」といった。オリヴァは、思案顔をしながら、カールに「良しでは、その教授のホームページとやらを見せて貰おうかな、まずはそれから考える事にしよう。冷静に教授の主張をホームページで読んでみて、そして教授の主張が真面かどうかを判断してから、参加する事にするぞ。お前もだぞ、カール、そうじゃないとソフィアとお前で、悪い道に進む事になるかも知れないからな、良いな」といった。イザベラが、自分の席から身を乗り出して、カールに「そうよ、オリヴァの言う通りにしないと駄目よ、大切なソフィアに何かあったらどうするの?カール、あなたの兄さんは警察官なのよ。オリヴァの意見はもっともな事だわ、良いわね、ちゃんとオリヴァにその教授の事を、確かめて貰ってからにしなさい」といった。カールは、少し機嫌を損ねた感じで、オリヴァとイザベラに「分かったよ、折角良い事を教えてあげたと思ったのに、なんか損した気分になったよ。でもちゃんと教授のホームページを見てからにしてよ、俺はやりがいのある活動だと思うな」といった。オリヴァは、諭す様に、カールに「分かった、分かった、じゃあパンも食べた事だし、これからそのホームページを見に行こう。それで良いね、カール」といった。イザベラは、にこやかな微笑をしながら、オリヴァとカールに「私は、後片付けをするわね、それと後で二人ともパンの感想を聴かせてね、今日はその事で早く帰って来たのよ、感想を聴かないと、うちのお店の店長に叱られるわ」といった。オリヴァは、頷きながら、イザベラに「任せてくれ、きっちりとパンを食べた感想を、考えておくからね、後で必ず話すよ」といった。カールは、席を立ち、二階に上がる階段の所で、オリヴァに「兄さん、早く、こっちだよ。ああ、それとソフィアにパンを食べ終えた事を報告しないと、これからソフィアも交えて活動の事を話さないといけないからね」といった。オリヴァは、たしなめる様に、カールに「さっきも言っただろ、俺が教授の主張が、如何なる物かを確かめてからだ、それからソフィアと連絡を取りなさい。良いね」といった。オリヴァとカールは、カールの部屋のパソコンの前で、ビヤール教授の事を少しばかりか調べて、教授のホームページへ行ってみた。するとオリヴァは、平静な表情で、カールに「うん、特に目立った攻撃的な発言も無いし、暴力を肯定する発言も無いから大丈夫だと思うな、うん、これなら関わり合いがあっても、平気だと思うよ。早速ソフィアに連絡して、活動を始めてみなさい」といった。カールは、満面の笑みで、オリヴァに「良かった、少し心配していたんだよ、兄さんとイザベラが、教授の事で少し脅かす様な事を言うからね。うん、直ぐにソフィアに連絡するよ」といって、携帯電話を取り出した。カールは、携帯電話のEメール機能を使い、ソフィアに『兄さんに、今日の講演会で話していた教授の事を調べて貰って、危険性の無い人物だって言われたから、ソフィアと一緒にデンマークの良い所を世界に向けて、発表する活動が出来るよ。連絡が遅くなって悪かったね、兄さんとイザベラが、心配して教授の事を、検討させて欲しいからって言ってね、それで遅くなったんだ』という内容の文面を送信した。するとソフィアからカールに携帯電話のEメール機能で、『本当に遅かったじゃない、もう待ちくたびれたわ。でもオリヴァとイザベラが私たちの活動を応援してくれるのは、とても嬉しいわね、それじゃ活動の意見交換を始めましょうよ』という内容の文面の返信が帰って来た。カールとソフィアが、活動を始めてから大分時間が経ち、今日の話し合いを終了する事にした。カールは、携帯電話のEメール機能で、ソフィアに『それじゃ、今日の活動はこれで一旦中断する事にしよう、また活動の時間を考えて、明日活動の日時とかを連絡するよ。それじゃお休みね、愛しているよソフィア』という内容の文面を送信した。するとソフィアからカールに、携帯電話のEメール機能を使って、『そうね、そろそろ寝る時間ね、活動はまた明日しましょう。ええ、私も愛しているわカール、連絡待っているわ、今日みたいに遅いのはいやよ、それじゃお休みなさい』という内容の文面の返信が帰って来た。それからカールは、興奮した様子で、オリヴァに「ねえ、兄さん、兄さんもビヤール教授と連絡を取ってみてくれよ、とても楽しくて有意義な活動になると思うんだ。ねえ、良いでしょう?」といった。オリヴァは、少し険しい顔をしながら、カールに「んん、そうだな、まあ良いか。俺も活動をしてみるかな、だけど仕事が忙しいから毎日活動をするのは無理だぞ、お前たちの活動に少しお邪魔させて貰う程度になると思うな」といった。そしてカールの提案でオリヴァもビヤール教授と連絡を取ってみる事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます