リハーサル
未央と一緒に学園祭の準備を進めていくうちに学園祭は明日へと迫っていた。我が校の学園祭は三日間に渡って行なわれる。1日目は劇や合唱、ダンスなど、舞台ものメインとなっており、公演ホールを貸し切りにして行われ、3日目には模擬店や男装女装コンテストなどを学校で行う。そのため2日目は3日目に向けての準備期間となっている。
ちなみに僕はなんの冗談か男装女装コンテストに出させられる羽目になった。もう神なんて信じるもんか。
この話を正志にしたら、
「うわ、頑張れよ」
などと面白がられながら言われた。とりあえず正志の彼女に、正志が浮気してると大嘘を伝えておいた。
ちなみにこの話を未央にした時、
「頑張ってね、楽しみにしてる」
と、こちらも半分面白がられながら言われた。とても可愛かったので許す。
僕らが担当することとなった音響照明係だが、こちらもなんとかうまくいきそうだ。正直かなり不安だったし、周りからも、
「頼りないなあ」
とか、
「まじで失敗しないでくれ」
などと言われた。こいつら僕をなんだと思ってんだ。やるときゃやる男だし、今回の仕事に関してはやる気満々なんだからな。俺はまだ本気を出していないだけ。今回だけはめっちゃ本気出す。
そうこうしているうちに学園祭前日リハーサルとなった。音響照明に関する用語を覚えたり、タイミングを調整したりとしていたら準備期間はあっという間に過ぎた。未央とも同じ役割ということで放課後残って一緒に話をしたり、時には一緒に途中まで帰ったりもした。
今日まで仕事はそれなりに大変だったし、クラスの仲も時に悪くなる時もあって大変だったが、なんとか今日までやり遂げてきた。やはり皆で協力してなにかを作り上げるというのは過程そのものが楽しく、新しい人間関係を構築できたりととても有意義な時間だった。
などと今までの期間を振り返っていると、音響照明のリハーサルの僕たちの番になった。未央と音響照明調節板の前に並んで座る。
「緊張してきたね」
と未央が話しかけてきた。
「そうだね、まだリハーサルなのにめっちゃ緊張する」
「リハでこんな緊張してたら本番どうなっちゃうんだろうね」
「まあなんとかなるよ。困ったらお互い助け合おう」
などと軽く話をしてから、目の前のステージに目をやる。まず最初に1年生のクラスごとのダンスを担当する。ここでは音響は事前にCDを用意しておくため音響の調節は必要ないのだが、音楽に合わせ照明や背景を頻繁に変えなければならない。タイミングや次の背景などを覚えなければならず、この役割の中で1番準備が大変だった。
1年生はダンスと言ったが、正確にはミュージカルのようにダンスとストーリーが同時進行する形式で、ストーリー内容は男子生徒が学校内ですれ違った女子生徒に恋をし、女子生徒を恋に落とそうとするストーリーであった。なんとも自分の境遇とかぶる部分があり、リハーサル中の1年生を見ながら何故か自分まで緊張してきた。
1年生のダンスを見ながら背景を変えてゆく。青、緑、ピンクと、色とりどりの背景を変えていった。2人で仕事を分担し、明るさや色、彩度などを調整してゆく。主役は1年生なのだが、何故か僕たち2人で作品を作っているような気がしてきて、流れる時間までもを創っているかのような錯覚を覚えた。
ふと、僕が照明を調整しようとしたところ、未央の手に僕の手が被さってしまった。慌てて僕は手を引っ込め、未央の方に目をやると、未央も少し驚いた様子でこちらを見ていた。こちらを見る未央の顔は気のせいか少し赤いようにも見えた。僕は恥ずかしくなり目線を外した後、未央に尋ねた。
「あれ、ここって未央の担当だっけ」
「確かそのはずだけど、一応確認してもらっても大丈夫?」
そう言われ僕は役割分担の紙を確認する。
「ここの役割まだどっちがやるか決まってないっぽい」
「本当に?後で調整し直しとこう」
「そうだね、リハーサルで助かった」
幸いこの時は話しながらも未央が照明調整を続けてくれていたため、照明がミスすることはなかった。この後もしばらく1年生のダンスが続いたのだが、僕の手には未央の手に触れた時の柔らな感触がしばらく残っていた。
前日リハーサルということもあって、この日は自分たちの役割を終えた後もなかなか忙しい時間が過ぎていった。クラス全員が参加して作られる劇の打ち合わせや、模擬店の準備、その他部活ごとの準備など、あくせくしているうちにあっという間に1日が過ぎていった。
そう。この日は本当にあっという間で充実しており、気がついたら1日が終わっていた。
そして、僕と未央は音響照明の調整をしなければならないことを完全に忘れていた。
天使に恋をした とし @Toshi8258
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