第7話

「マイリはもう、傷ついてはダメだ。」


なつかしい声だ。


「アラル………。」


「お帰り、マイリ。」


なつかし顔、なつかしい笑顔。


「ただいま…アラル。

あなた、もう大丈夫?」


「何がだ?」


何が有ったのか覚えていないのか。

それならばその方がいいのかもしれない。


「マイリ、そいつから離れろ。」


ガルダが怖い声でそう言う。


「なぜおまえが此処に居る。」


アラルは傍らから剣を取り、スッと鞘から引き抜いた。


「あんた達、またマイリを殺すつもりなの?」


「殺したいのはこいつだ!」

「マイリを殺したのはこいつだ!」


二人の声が、同時に被る。


「い・い・か・げ・ん・になさい‼

ガルダこの人の事は覚えているよね。」


「あぁ、いくら忘れたくても、忘れられない奴だ。」


「こら、この人は私の仲間だった人よ。」


「俺は過去の人間なのか?」


どこかで聞いたパターンだ。


「アラルも上げ足を取らないの。

ガルダ、アラルは母さんの仲間なんだから仲良くしてほしいの。

アラルもよ。

ガルダは私の大事な子なんだから。」


だが、いつも私の言う事を素直に聞いていたガルダが、

今度ばかりは素直に頷かない。


「ガルダ、ダメなの?

アラルとは仲良く出来ない?」


「こいつは俺とマイリの邪魔をする。」


「アラルはそんな事しないわ。」


「いや、アラルは邪魔するんじゃないかな。」


ミンミは黙って!


「分かった。

それならすぐに仲良くなれとは言わない。

でも、少しずつでいいから、アラルを理解してあげてほしいの。」


「嫌いではだめなのか?」


若い竜はそう言う。


「母さんは、二人が仲がいいと嬉しい。」


「分かった。努力はする。」


「ありがとうガルダ。

アラルは?

もちろんガルダと仲良しになってくれるわよね。」


返事がない。

おまけに渋い顔をしている。


「アラル、だめ?」


右斜め上45度、首をかしげてアラルの顔をじっと見つめた。


「こいつは…マイリを殺した。

俺からマイリを奪った。

そんな奴と仲良くなれと言うのか。」


「奪ったのはお前達だろう‼」


「止めてガルダ。

分かったわ、二人が仲良くなれないのなら、私は家に帰る。」


「家だと?

マイリの家はここだ。

俺達はマイリが帰ってくるまで、ずっとここを守って来たんだ。」


アラルはまるで捨てられた犬のような目をする。


「残念だったな、マイリと俺の家は、俺の山の頂上にちゃんとある。」


勝ち誇ったようにガルダが言う。

それを聞いたアラルは、犬が尻尾まで巻き込んだ様に負け犬状態になっている。


「ガルダ、残念だけど私が帰るのはあそこでは無いわ。

今まで私がいた異界の家よ。」


それを聞いた途端、ガルダは目を見張り、顔色が悪くなる。

でも、そんな顔をしてもだめよ。

母さんはもう、甘やかしませんからね。


「ミンミ、私の意志であちらに渡るんだから、もう私を連れ戻したらだめだよ。」


「分かったわ。

つまり私達は、もう絶対にあなたに会うことが出来なくなるって事ね。」


そう言うも、彼女の顔は、そう落ち込んでいるようには見えない。

多分私が本気では無いと勘付いているのだろう。

そう、私は本気ではない。

だって、以前倒した奴が次代で、それより強いアラルが魔物化するって、

つまりはアラルが最強の魔王になるって事だよね。

そんな奴を放っておける訳がないでしょう。


まぁ、脅しがてら、あちらの世界に置いて来た物を取りに行くのも手だな。


それから二人は、打って変わっていい子になった。


喧嘩をしません。

仲良くします。


そう誓ってくれた。

実際何年かすると、二人はいい飲み友達になった。

アラルが飲める事は知っていたが、

ガルダも飲めるようになっていたんだね。

いつの間にか大人になっていたんだね。

母さんは嬉しいよ。

そう感慨にふけったが、考えてみたら、

既に300年近く生きているんだったね。


それから、私の指に光る指輪をアラルが見つけた時の、

彼の顔が見ものだった。

理由を説明したが、あまり納得していないようだ。

それから数日姿を見せなかったアラルは、

やがて大きな虹色の石を持って帰って来た。

トゥアルだ。良く見つけたね。


「これでマイリの指輪を作る。」


そう意気込んでいたけれど、

そんな大きな石で指輪を作れない。

たとえ作ったとしても、指、いや腕が疲れる。


「それなら割ろう。」


「ちょっと待って!」


めったに見つからない大物、それでなくても希少価値が高い石を、

そんなに易々と割ってはダメだ。

そう思ったが、声を掛けた時、既に石はバラバラに割れていた。


「「あっ…………。」」


そう、見事に石は粉々だった。


今アラルは、その中から指輪に使えそうな物をより分けている。


「バッカじゃ無いの。」


そう言わないでやってよミンミ。


「ねぇ、その石の破片でもいいから私にもくれないかな。」


確かに破片でも価値は高いだろうし、魔石としても使える。


「ダメだ、これはマイリの石だ。」


その代りにと言って、アラルはポケットから無造作に、もう一つ石を出した。

今度の物は、あれより二回りほど小さい真っ赤な石だった。

良かったねミンミ。

シアランなら、この欠片より、もっとずっと価値があるよ。


それからアラルが苦労して作った指輪を私がはめた時、

アラルは微妙の顔付をしていた。

何故だ?


「それはあんたが、指輪を

右手の小指にはめているからに決まっているでしょう。」


男が女に指輪を贈る意味を知らないの?

あきれ顔でミンミがそう言う。


「だって、左にはガルダのが有るし、

アラルの作った物はサイズ的に小指にしか入らないもの。」


私は、ちゃんと指に納まる物を、作り直せなんて言わないからね。






【勢いでここまで書いてしまいました。

新章はまた後日(多分更新すると思いますが、取り合えず完です。)】

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竜の母は勇者に恋をする はねうさぎ @hane-usagi

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