第5話 

「何言ってるのよ、

大変な事になるから、冗談はやめて。」


「冗談では無いよ……大変て何?」


「これ以上アラルを放置するなって事。

下手すると魔物化するわよ。」


そんな馬鹿な。

アラルは英雄だ。

英雄が魔物になるなんて、洒落にもならない。

そんな事になったら誰にも彼を止める事は出来なくなる。


「あんたなら出来るでしょう?

あんたしか出来ないの!」


そんな馬鹿な。彼は私よりも力がある。

魔物なんかになったら、彼を止めるのは私にだって無理だ。


「何カマトトぶってるのよ。

あんたとあいつの関係を言っているのよ!」


「関係って何。私達の間には何も無かったのに。」


私達が何かした事実なんて存在しない。


「あらそうだったの。

でも、気持ちの上では違うでしょう?

あんたはあいつの事を何とも思ってなかったの?」


思っていたわよ。

だから辛かったんだ。

愛する者が戦い合うなんて。


「バカだよ。

あんた達は。」


「マイリを悪く言うな。」


低く唸るような声がした。


「お帰りガルダ。

早かったね。」


「おかしな気配がしたから帰って来た。

原因はこいつか。」


「こいつじゃ無いよ。

ミンミ・フラタネン。

私のかつての仲間だった人だよ。」


「過去形にするな!」


ミンミがまた怒鳴る。


「怒ってばかりだと、小じわが増えるよ。」


思わずミンミが両手の平を口元にあてる。

あぁ、やっぱりシワを気にしているんだね。


「嘘、大丈夫だよ。

ミンミは相変わらず綺麗だ。」


「お世辞なんていらないわ!」


ほらまた怒鳴る。


「またマイリをどこかに連れ去るなら俺が許さない。」


静かなガルダの声が響くが、それは決して穏やかな物では無かった。


「ごめんねミンミ、せっかく迎えに来てくれたけど、私は帰る気は無いの。」


「何馬鹿な事言ってるの、

今度こそ世界が破滅するよ。」


「だからほら、それはミンミに任せる。」


世界を救うためなら、ミンミは何でもやるでしょう?

たとえそれが嘘だろうが、手八丁口八丁、

アラルにうまく言っておいてよ。

私はもう少し、ガルダと一緒に居たいんだ。


「なら、ガルダも連れて行けばいい。」


「はぁ?」


「ガルダはもう成獣になったんだろ?

それならもう巣から離れても大丈夫だ。」


そりゃそうかも知れないけど……、


「そう言えば、ガルダは何歳になったの?」


「覚えていない。

でも、マイリがいなくなってから、おおよそ285年ぐらい経った。」


それは私がここから出てからの数字だね。

私はまじまじとミンミを見つめた。


「ミンミって、年の割に若く見えるんだね。」


「阿呆――—っ!」


これまでの事は説明が長くなるから、

とにかくアラルの事が片付いたら教えてやる。

だから早く出てこい。

ミンミはそう言うが、

私は一応、行かない宣言をしたんだよ。


「何わがまま言ってるんだ。

おい、ガルダ。

お前も一緒に来い。

そうじゃ無きゃ、この石頭は梃子でもここから動かない。」


「なぜ俺達がお前と行かなければならないんだ。」


「世界が滅亡するかもしれないからだよ。」


「あの時もお前はそう言ったな。

そう言ってマイリを連れ去った。」


あぁ、もう!それは大昔の話だろ。そう言いミンミが頭をかきむしる。

ここに来てからのミンミは、かなり機嫌が悪そうだ。


「ガルダは自分が死んでもいいの?

それだけじゃない、マイリだって死んじゃうんだよ。

この世の全てが失われるんだ。

この屋敷も、花も自然も。

全部無くなっちゃうんだよ。」

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