第3話
「ガルダ、ずっと待っていてくれたんだ。
ありがとう。
でも私が復活してここに現れるって、よく分かったね。」
「あいつらが黙っている筈が無いからな。」
まあ、そうだろう。
ミンミ・フラタネンなら黙っていないだろうね。
私だって、もし誰かを失ったなら、必死になって魂を探し出すだろう。
ただ、良く見つけたもんだと感心する。
だって私の魂は異世界に有ったのだから。
「この場所に来るって知っていたの?」
「勘だ。」
うん、そうだね。
ガルダの野生の勘。
本能か。
そして私は遠慮なくガルダに跨った。
ガルダは大きな羽を広げ、空に舞い上がる。
「それで、私をどこに連れて行くの?」
「あいつらのいない所。
マイリをまた連れ去るのは許さない。」
「連れ去ったのではなく、私が付いて行ったんだけど。
でもあなたを捨てた訳では無いんだよ。」
「分かっている。」
彼は私の可愛い息子。
ただ血がつながっている訳では無い。
彼が幼生の頃、私が拾った龍だ。
そして私が息子のように育て、
そして別れた。
時期が悪かったのだ。
彼が幼期を終え成長期となった時、コルベラ山の主となった。
成獣となるまでそこを離れられない。
私もそこに一緒に留まるつもりでいた。
だが、アラル達に会った。
彼達は私の力を欲した。
世界の滅亡を阻むために。
時間が無かった。
私がガルダの下に留まると手遅れになる。
世界が滅亡するとはガルダも失われると言う事。
当時の私はそれが絶えられなかった。
「いなくならないで!」
泣きながらそう訴えるガルダを置き去り、
私はアラル達と旅に出た。
亜苦を打ち滅ぼす為に。
今回は運が良かった。
台頭したのは次位の物だったからだ。
本家本元が出ていたら、
私達だけでは滅ぼすことが出来なかっただろう。
そしてその間に私は恋をした。
愛を知った。
アラルに。
ガルダを忘れていた訳では無い。
だが、浮かれていたのかもしれない。
そしてしびれを切らしたガルダが私を迎えに来た。
「母さんを返せ!」
あの咆哮はそう言っていた。
そしてガルダは彼達に襲い掛かる。
いくら成獣になったからと言って、彼はまだ幼生だったのだ。
私に対しては、まだ幼生だった。
彼を離したのは母親だ。
それでも彼は、母親に甘えたい子供だったのだ。
鬱積していた感情を爆発させたガルダは、
その矛先をアラル向けた。
私に仲裁は無理だった。
私はどちらも選べないのだから。
その時、このエネルギーを消滅させるほどの力は、
回復途上の私には残っていなかった。
だから私は盾になるしかなかった。
二人とも救うにはそれしかなかった。
愛する二人の為ならば、私の命など惜しげもなく差し出そう。
この世界での記憶、成り行き、感情が一気に私の頭の中に溢れかえる。
「結構辛いものだね。」
頭ガガンガンする。
「どうした。」
「んーん、何でも無いよ。」
ガルダは夕焼けに向かい大きく羽ばたく。
一体私をどこに連れて行くのだろう。
いや、分かっている。
私達二人だけになれる所だ。
いいよ、一緒に行くよ。
義務なんかじゃない。
今の私はガルダと一緒に居たいのだから、
可愛い私の息子。
ガルダが行きたいところに一緒に行こう。
「着いたよマイリ。」
どこかの大きな洞穴で二人で住むのかな。
焚火を前にして二人でくつろぐ姿を想像していた私の予想は、
見事に覆された。
目の前にあるのは、大きな屋敷。
だがそれが有るのは、高いコルベラ山の山頂だった。
回りは草木も生えない過酷な場所のはずだ。
だけどなぜ、花が有る?草が有る?森が茂っている?
「思っていた通りだ。」
「何?」
「きっとマイリはこういうのが好きだって事。」
うん、よく分かったね。
ガルダが物心ついた頃は、
コルベラの殺伐とした風景しか知らなかったから。
良く私が自然が好きだと分かったね。
「マイリはよく話していたから。」
「世界には美しいものが沢山あるって、
ガルダにも知ってほしかったからね。」
ここにはきっと結界が張ってあるのだろう。
外からの冷気が全然入ってこない。
そして、私に害をなす者が入ってこれない様に。
つまり、ガルダに取ってはアラルダ達の事を言うのだろう。
「マイリが気に入ってくれて嬉しい。」
「うん、気に入ったよ。
ガルダ、頑張ったね。
ありがとう。」
へへへと照れ臭そうに笑うガルダ。
そこにはあの頃のガルダがいた。
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