第3話「Who is you」

「……姿、だね」


両耳後ろで結ばれたツインテール、引き込まれそうになるターコイズブルーの瞳、…間違えるはずがない。が。こいつは、ハルなのか?動揺している俺に、苦笑いしながらハルは言う。

「…あはは、混乱中のキミに言うのは申し訳ないけど、ボク、とっても急いでるんだ。だけど、これだけは言っておくよ」

真剣な目付きに変わった。

「ボクは間違いなく、デビュー一ヶ月で超人気アイドルなり、新曲を出せばCDショップからは即完売確実の、あのだよ。…しかし、それと共に、朝から出会い頭に衝突し、そればかりか、ここまでキミが自転車で送り届けてくれた、柏木陽巴かしわぎ・はるはでもあるんだ。つまり、どちらも同一人物だよ。」

…もう、頭が追いつかないぞ。そんなことより、

「…っ、だけど!もしそれが事実だったとしてだ…!俺にキスしたことに何か関係あんのかよ…!?」

ハルは俺に背を向けてこう言った。

「ごめんね、もう行かなきゃ」

歩いていく後ろ姿には、どこか悲しげで、どこか寂しげな。モニターに映るとはかけ離れたがそこには居た。


汗でぐっしょりしていた制服もマスクも、いつの間にか乾いていた。俺は不意に自分の唇に触れてみる。

ーー消えない。

あの一瞬がまだ残っている。

快晴だった空も気がつけば、光が遮られ、不穏な色で染まっていた。


「あんな顔されたら…、帰れねぇっつの…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ザァー…


何時間経ったのだろうか。雨が地面に打ち付ける。

「やべぇ…。自転車だったんだっけ、今日…。帰れっかな…」

指先が悴む。髪も、服も、靴も、全身びしょ濡れだ。

「こんなガラじゃないこと、なんでしてるんだろ…。奈月に見られたら、黒歴史に刻まれ …っ!?」

いきなり視界が歪む。世界が反転して見える。

あぁ、まただ。

「面倒くさいのに、首、突っ込んだから、なのかな…」

バシャン。そのまま俺は地面に倒れ込んだ。





「…………ぇ!キミ!起きて!」

俺を、呼んだのは…、誰だ?

「気付いてよ!ボクだよ、ボク!」

この声は…、

「ハ、ハル!?」

ハルのモーニングコールに驚き、思わず飛び起きた。

「う、うわぁ!……やっと、起きたぁ~」

泣きそうな顔で抱きついてくる。…待て!心の準備が…!!!

「…っと、ハル!まず、状況を説明してくれ」

強制的に平常心に戻ることに成功。

一瞬きょとんと目を瞬きさせ、呆れた顔に変わり、

「テレビ局の駐車場裏で倒れてたんだよ!それに、びしょ濡れで!」

そうだ、あの時。視界が歪み、あのまま倒れたのか。情けないな…。

「ここまで運んできてくれたのは誰だ?」

周りを見渡して俺は問う。そして、ハルは笑顔で答えた。

「え、ボクだけど?」

は!?いや、どうやっ…

「大変だったんだよ~?雨の中、後ろにキミを乗せて、ここまで来るの」

は!?ちょっと待っ…

「おかげでキミは、でぐっすり!感謝してよ~?」

ストーーップ!!!!!!だと!?

「じゃあ、ここは…」

おそるおそる横を見る。案の定。

「え、そうだよ?ボクの部屋!!」


こいつはいくら俺を混乱させるんだよ…!

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キミの正体=キス×俺 リリィ @ppp5love

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