第92話熟縁

「ヨジップ殿下、それでは死んでしまいます。

 もっとしかりと間合いをとってください!

 自分を過大に評価するような者は、いずれ死にますよ。

 殿下は本当に実力で強くなったのではないのです。

 我々が尻を押し手を引いて強くなったのです。

 それを忘れて驕り高ぶると、いずれ死にますよ!」


「すまぬ!

 もう二度と逸ったりはせぬ。

 だから許してくれ」


 私の厳しい言葉にヨジップ殿下が真剣に反省されます。

 まあ、これくらい反省しているのなら、今程度の焦りは大丈夫でしょう。

 本来の自分以上の強さを、仲間の助力で得た者が、驕り高ぶって仲間を道ずれに自滅していくのを何度も見ました。

 馬鹿だけが死んでいくのなら、私は何も言いません。

 それは単なる自業自得ですから。


 ですが、大魔境や大ダンジョンで馬鹿が自滅する時は、仲間を道ずれにしてしまうので、黙ってみているわけにはいかないのです。

 大恩あるドウラさんや仲間達を、ヨジップ殿下の愚かさのために死なせるくらいなら、密かにヨジップ殿下を殺した方がマシです。

 でも、これくらい真剣に反省しているのなら、そこまでやる必要はないでしょう。


「ふ~ん、案外相性がいいのかもしれないね。

 このままパーティーメンバーとして狩りを続ければ、自然と熟縁になるかもね。

 ジョージはどう思う?」


「そうだな、ドウラの言う通りかもしれないな。

 外からどうこう口出しするよりも、このまま狩りを続けていれば、自然と縁が結ばれるかもしれないな」


「馬鹿な事を言わないでくれ、親父殿。

 ラナと決婚するのは俺だ」


「ダニエルは黙っていろ。

 お前のような遊び人にラナは相応しくない。

 ラナに相応しいのは俺のように真面目な人間だ」


「俺はもう遊びは止めた。

 いくらイヴァン兄貴が相手でも、俺はラナを諦めないからな。

 兄貴のような真面目だけが取り柄の男こそ、ラナには相応しくない。

 真面目なラナを愉しませるくらいの事ができない男では、ラナと決婚などできん」


 ドウラさんもジョージも冗談が過ぎます。

 私がヨジップ殿下と結婚するわけがありません。

 冒険者の自由で気儘な生活を知ってしまったら、堅苦しい皇族の生活どころか、元の士族家にさえ戻れません。

 今さらヨジップ殿下と結婚するくらいなら、あんな危険を冒してまで最初のプロポーズを断ったりはしません。


 私は生涯現役の冒険者を続けるのです。

 現役冒険者を続けていれば、城伯家の当主であろうと、自由気ままに生きる事が許されると、今迄の経験で学んだのですから。

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持参金が用意できない貧乏士族令嬢は、幼馴染に婚約解消を申し込み、家族のために冒険者になる。 克全 @dokatu

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