第245話 鬼の居ぬ間に


「それではベアード学院長、これより首都まで。学士、二十余名、お預かりします」

「引率よろしく頼みましたぞ、クレストフ先生。向こうには一足先にムンディ教授も行っていますから、現地で合流なされるとよろしいでしょう」

 アカデメイアの門前で、アリエルを含む学士達二十余名に、俺とレリィは連れ立って首都へと出発する準備を整えていた。見送りにはベアード学院長とナタニア、それにカルネム博士とモリン三級術士が来ていた。

「それじゃアリエル、先輩の言うことを聞いて、しっかり等級審査がんばってきてね。嫌になっても逃げだしたり、自棄になって暴れたりしちゃだめだから」

「ナタニア……私は別に小さな子供ではないのですが……」


 アリエルとナタニアがしばしの別れの前に言葉を交わしている。他にも意外な組み合わせとして、レリィにカルネム博士が挨拶をしていた。

「ではレリィ殿、学士達をよろしく頼むのである」

「うん、任せて! とは言っても、首都に戻るだけだから危険は少ないけどね。それより森の様子が心配だけど……モリンさん、大丈夫?」

「今は獣の動きも落ち着いているので、問題ありませんよ。私も体調は完全に回復しましたので。ですが、戻ってきたらまた少し、森での狩りを手伝ってもらえると助かります」

「わかった! 戻ってきたら、また一緒に狩りへ出ようね」

 レリィはカルネムやモリンと話をしながらも、どこか浮ついた様子でしきりに辺りへ視線をさまよわせていた。


「……レリィ殿、リスカのことだが……」

「え!? あ、リスカ? うん、リスカね、彼女どうかした?」

 あからさまにリスカのことを気にした様子のレリィに、カルネム博士は言いにくそうに目を細めながらリスカの現状を話す。

「リスカはここ最近、一人で黙々と鍛錬に明け暮れていて、自分としても声をかけづらいのだ。鍛錬が終わるとすぐに姿を消してしまうし、心配ではあるのだが……」

「無理もありません、魔獣と戦闘になったのですから。心が落ち着くまでは時間が必要でしょう。レリィさんもお気になさらず。首都から戻られる頃には、きっと気持ちの整理もついているでしょうから」

「……うん、そうだといいかな」


 表情の暗いレリィに、ナタニアが近づいて軽く手を取る。

「レリィさん。リスカのことは私が見ておきますから、心配せずに首都へ行ってきてください」

「ナタニア……。ありがとう、気を遣ってくれて。じゃあ、行ってくるね!」

 出発前に各々の別れを済ませた一行は、首都へ飛ぶ魔導飛行船の発着場へと向かい、住み慣れたグルノーブルの街並みとアカデメイアの学院を後にするのだった。



「わぁ~……アカデメイアがあんなに小さくなってる」

「うわ、まじすっげ。建物が豆粒みてぇ!」

 飛行船が飛び立ち、空から地上の風景が俯瞰できる高さに来ると、これまで飛行船に乗った経験の少ない学士達は興奮を抑えきれない様子で、座席から腰を浮かせて窓を覗き込み、はしゃいでいた。

「あぁー! ねぇ、見て見てクレス! あれ、あたし達が泊まっていたゲストハウスじゃない? 上から見ると六角形の結晶みたいな形しているよ!」

 学士達に混じって、レリィもまた二度目の空の旅に興奮を抑えられずにいた。

 他の学士達の手前、あまり厳しく注意するのもどうかと考え黙っていたが、まったく耐え難い恥辱である。俺と同じように、半ば学士達の引率役となっているアリエルもまた、いたたまれない様子で耳を赤くしながら暴走する学士達をやんわりと宥めていた。時折、通りがかる他の乗客が微笑ましい表情で見ていくのに気づいては、口元の引き攣った笑顔でごまかす姿がなんとも哀れだ。


「おい、アリエル。もういい、こっちへ来い」

「……?」

 レリィや学士達に気づかれないように、俺はアリエルに声をかけてから、その場を離れた。

 外の景色に夢中で飛行船の窓に張り付いている彼らは放置して、離陸したばかりで人気の少ないラウンジを通り、一等客室へと入り込む。

「か……勝手に客室へ入り込んではまずいでしょう!? 何をしているのですか、あなたは!」

 アリエルは慌てて俺の後に続き、半分だけ開いた客室の戸の前で不審者のように辺りを窺っている。

「落ち着け。この部屋は元々、俺が予約しておいた場所だ。学士達が落ち着いたらこちらに移ろうと思っていたんだが……あの様子ではいつ興奮が冷めるかわからなかったからな」

 それだけ言うと客室の席を軽く叩いて、アリエルに座るよう促す。


 アリエルは不審感を抱いたままの表情で、しばらく俺と客室の席を睨んでいたが、やがてのろのろと俺の対面にある席へと腰を下ろした。

「……良かったのですか? 学士達を放っておいて。これは引率者としての職務放棄ですよ?」

「意外なところで糞真面目な奴だな。やつらも子供じゃない。飛行船の中なら迷子になるようなこともないし、少し騒がしくとも若い学士のやることだ。他の客も大目に見てくれるだろうよ。放っておけ」

「まぁ、正直なところ、私もあれ以上さらし者になるのは御免でしたので、助かりました」

 心底から救われたといった感じで、アリエルは深く溜め息を吐いた。


「お前も等級審査の前だ。本番前に落ち着いた場所で、自分の研究内容の確認くらいしたかっただろう?」

「なんですか? 恩でも売るつもりですか? 私に恩を売っておいて、最後は『等級審査に合格したかったら俺の言うことを聞け』みたいな脅迫をして、女学生の身体を辱める気ですか、いやらしい」

「……それだけいつもの毒舌が出れば平気だな。しかし、残念ながら魔導技術連盟における等級審査には、俺も口を出すことができない。自力で頑張ることだ」

「わかっていますよ。馬鹿ですか、あなたは……。私のことなど心配せず、あの無邪気な愛人の御機嫌でも取っていればいいのです」

 アリエルなりの冗談であるのはわかっていたが、さすがにレリィのことを愛人というのは誤解も極まっている。


「レリィのことなら愛人じゃない、あいつは相棒だ」

「似たようなものでしょう。あなたが決めた伴侶なのだから」

「さて、どうかな。俺とレリィはあくまで、術士と騎士の契約関係だ」

「はぁ? あれだけ普段から、いちゃついておいて……。まさか他に女がいるのですか!? それこそまさに愛人ではないですか!? 二股とは、まさしくタラシ男の所業ですね」

 違う、と言いたかったが、実のところはどうだろうか。あの娘の、ビーチェのいない寂しさをレリィに求めてはいなかったか。抜け落ちた心の穴を埋められるのが、心地よかったのは確かではないか。


「……さ、最低ですか……」

 黙ってしまった俺の様子を見てアリエルは肯定と取ったらしく、呆れ果てた顔をしていた。等級審査用の自筆論文を取り出して、その後は俺と目も合わせずに黙々と読み込み始めた。


 宝石の丘で別れて以来、あの娘とは長い時間の乖離を生じてしまった。

 再び出会ったとき、果たして以前のように接することができるだろうか。そうでなくとも、うまくやっていけるだろうか。


 ――馬鹿馬鹿しい悩みだ。全てはまず、あの娘を取り戻してから悩むべきことなのに。


 魔導飛行船が風を切る推進音だけが客室に響き、俺もアリエルもずっと黙ったまま言葉を発しなかった。

 考えなくていいこともある一方で、考えるべきことはいくらでもある。

 それぞれに願いがあり、想うところがあり、今はその為にできることをやろうとしているのだ。

 今日、アリエルが等級審査を受けるのも、俺がここまで彼女を育てたのも、一歩先の未来へ進むためだ。


 ふと、俺はアリエルがどんな未来を見据えているのか気になった。

「アリエル、ありきたりだがよくある、等級審査の面接における質問を一つ確認しておく。お前は四級術士の試験に何故、挑戦する? あるいはその上の三級以上を目指す気はあるか? だとすれば、何が目標だ?」

「藪から棒にどうしたのです。四級術士の等級審査では主に自分の研究に関する詳細な説明を求められる、とあなたが言っていたではないですか。今の質問は研究内容から遠い、あまりに曖昧な問いだと思いますよ」

「いいや、密接だよ。お前の研究に、何の目的があるのか。論文に書かれた研究都合上の建前ではない、本心こそを問いかけている」

 ようやく俺が真面目に質問しているのだと気づいたアリエルは、読み込んでいた論文を一度、座席の脇に寄せて置いた。目を閉じて、自分の中にある問いの答を探すように深く思考に没する。


「……たぶん私は、抜け出したかったのです。どうしようもなく行き詰まった現状から。貧困な生活、家の事情、伸び悩む自身の能力……。願うのなら、貧困から脱し、家を復興し、さらなる高みへと登りたかった」

「それは、お前の研究にどう関わってきた?」

 四級術士の等級審査、そこで提出される彼女の研究論文は、『不完全召喚における被召喚物の存在率について』というものであった。

「ずっと叶わない夢、幻想だと思ってきました。召喚すれども手元に残ることのない、不完全な被召喚物のように。でもそれは確かに存在していて、一線を超えさえすれば実物として手に入るものなのだと、私はそれに気が付いた。私の目標は確かに見えていて、そこにある」

「具体的には?」

「例えば情報の収集。自分にとって必要なものがどこにあるのか、一つ一つ完全召喚で確認していたら魔力がどれだけあっても足りません。不完全な召喚でも、そこに目的とする物があるなら少ない魔力で借りてくることができる。まずは借りてきて、その特性を知ったうえで完全召喚すべきか判断できる。それは効率的な知識の獲得と素材収集の方法でもあり、不完全召喚でも十分に有用なものがあれば能力の向上に繋がります。引いては私の目標を達成する手段となりうる……」

 悪くない回答だった。アリエルの中にもしっかりとした目標があり、そこへ至るための手段も手にしている。私的な事情に過ぎると思われるだろうか? しかしそれでいいのだ。


「講師クレストフ、こんな哲学問答になんの意味があるのです?」

「大いにあるさ。先を目指す気のある術士かどうか、という意味でな」

 俺の言わんとすることがいまいち理解できないのか、アリエルは首を傾げている。まあ、これは必ずしも本人が理解している必要はない。

 要するに審査する側としては、四級術士の等級審査を受けに来た人間がここで終わりなのか、あるいは先を見据えているのか、それもまた重要なのだ。

 四級術士の資格は、単なる肩書ではない。研究者として、探究者として、やっていけるかどうかの線引きなのだ。持ち込んだ論文一つで満足して、資格をもらうことだけが目標の人間には、その先などありえないのである。


「俺が教えるべきことは一通り教えた。後はお前次第だ」

「言われずともわかっています。ここから先の未来は、私が自分で切り開かなくてはいけません……」

 飛行船が少しずつ高度を落とし、着陸の体勢に入る。アリエルは荷物をまとめて一足先に客室を出る。学士達のところへ向かったのだろう。俺も戻らなければいけないが、どうせ連中は着陸時にまた騒ぐのだ。飛行場に降りてから合流するのでも問題ないだろう。一等客室ならば希望次第で優先的に下船が可能だ。

 俺はあえて席を立たず、飛行船が完全に着陸してから悠々と降りることにした。




 クレストフ一行が魔導技術連盟に到着し、学士達がそれぞれに等級審査を受ける手続きを始めたころ、連盟本部の一室で一組の男女が挨拶を交わしていた。

 一人は白衣を着た少年姿のムンディ。もう一人は若草色のローブに身を包む、一見して妙齢と見られる美しい女性だ。緩やかに波打つ栗色の髪が腰まで垂れ、長い睫毛と濃い褐色の瞳は秘められた強い意志を表情に表している。

「久しいね、グリュンフィール。全く変わらないようで驚きだよ」

「その名前で呼ばれるのも久しぶりですね。よく顔を出してくれました、ムンディ。あなたこそ、随分と若返ってしまったようで。羨ましいわ」

 ムンディにグリュンフィールと呼ばれた女性、連盟本部でも最古参の『深緑の魔女』は、目の前にいる少年姿の昔馴染みを見て羨む視線を送る。対するムンディはそんな視線を受けて、不服そうに顔を歪めていた。


「皮肉かい? 僕としては実験の失敗を晒しているようで恥ずかしいんだけどね」

「異界渡りは成功した、と聞いていましたけど? 異界の存在証明をした代償としては悪くないでしょう。むしろ成果であると、不老を望む術士達は誰もが称賛しています」

「無事に戻って来られて成功、と計算していたからね。その点では失敗だよ。再挑戦にはまた何十年と待たなければいけないし」

 事実、ムンディの身体は異界で時間を巻き戻され、下手をすればあと少しで生まれる前の状態まで戻り、消滅してしまうところだった。素直に称賛を受ける気にはなれないのが正直な思いだった。


「贅沢な悩みですよ。そのくせ、別の方法で異界への旅を企図しているとか? 欲が尽きませんね」

「君だって大した出世欲を持っているだろう。心まで若い証拠だよ。ま、僕はそっちに興味はないから、好きにやるといい」

 若々しい見た目に反して、『深緑の魔女』は既に半世紀を過ぎて生きている。連盟本部にしっかりと根を張り、権力基盤は確固たるものとなっていた。

「あなたは『結晶』と行くのでしょう? 精々、ゆっくりと旅を楽しんできてもらえれば嬉しいですね」

「言われずとも、そうさせてもらうさ。一級術士と騎士の護衛まで付けて、時間をかけて異界の狭間を調べられるなんて機会はまずないから」


 『深緑』が『結晶』、一級術士クレストフの旅に対して抱く思いには、どこか厄介者払いの気配が感じられる。秘境・宝石の丘への再挑戦には、他にも一級術士『風来の才媛』も参加すると聞いている。連盟本部に籍を置く一級術士が二人も、長期間に渡り首都を離れるというのは組織運営上あまりよろしくない案件のはずだ。

 それにも関わらず、余裕の表情で彼らの旅を肯定するのは、何か思惑があってのことだろう。だが、それはムンディにとっては些末なことだ。魔導技術連盟の内輪揉めだとか、権力争いには全く興味がない。重要なのはやはり、この世界に現出した異界を直接に調査できる機会に恵まれたことだ。これ以上に優先すべき事柄は、ムンディにとって他にない。


(――それは彼、クレストフ君にとっても同じことだろうね――)


 ムンディや『深緑』からすれば若輩と言えるクレストフだが、決して侮れない人物であると二人も認めていた。連盟の地位や権力をうまく使いこなし、さりとてそれに縛られることもなく己の理想を追い続ける姿は、同年代の他の術士と比べても一本強い芯が通っている感じだ。

 同年代比較ということでは『風来』もまた非凡な人物であると聞くが、ムンディは面識がなく噂程度にしか彼女のことは知らない。クレストフとはまた違った方向で、計算高く強かであるとの評価を聞いたことがある。ただ、こちらもクレストフ以上に自由人で、なおかつ連盟の運営に深く携わる立場にもいる。古参の魔女達も扱いには手を焼かされているらしい。


「そういえば今日はアカデメイアの生徒が大勢、やってきていましたね。なんでも『結晶』が自ら教育した学士達ですとか」

「あぁ、等級審査を受けに来たんだね、今日の予定だったか……。首都へ入ったのは僕の方が先だったのに、事務処理に追われる間にもう追いつかれてしまったようだ」

「それも今日、私との面談で用事は全て終わるのでしょう?」

「……やっとね。後でクレストフ君達と合流して、等級審査の結果発表まで一緒に待つことにするよ」

「等級審査の結果が出るのは来週になりますから、それまではゆっくりしていくといいでしょう。秘境への旅路は、相当に過酷と聞きますからね」

「なぁに、それも僕としては楽しみで仕方がないことだよ。むしろ遠足前の準備を楽しむつもりで、首都を一巡りしてくるさ」


 面談とは名ばかりの、旧知の間柄での会談を終えて、ムンディは連盟本部の一階ロビーへと出た。受付でクレストフが控えている部屋を確認し、そちらに顔を出すことにする。

「失礼するよ」

 小さな会議室には学士達の荷物が乱雑に置かれている。それらに囲まれるようにして、クレストフは長椅子に仰向けとなって寝ていた。熟睡していたわけではないらしく、声をかけるとすぐに起き上がった。

「ムンディ教授でしたか。こちらでの用事はもう済まされたのですか?」

「うん、つい先ほど『深緑』にも会ってきた。これで僕が君の旅路に同行することに問題はなくなったよ」


 『深緑』の名を出した瞬間、クレストフの表情に警戒の色が浮かんだが、用件が無事に済んだことを聞くと安心したように軽く息を吐いていた。さすがの彼も、グリュンフィールには苦手意識があるようだ。

「ところで、学士達は等級審査の真っ最中かな?」

「ええ。俺が教え込めることは全て叩き込んだので、後は彼ら次第です。アリエルにしても……」

「一年時の学士を二十余名、六級術士に仕立て上げ、アリエル君は四級術士に挑戦か……。この短い期間でよく育て上げたものだね」

「まだ合格できるとは限りませんよ?」

「挑戦できるだけの実力が付いたこと、それ自体が大した成果だよ。クレストフ君には教育者としての才覚があるのかもしれない。できればもっと、アカデメイアで教鞭を振るってもらいたいくらいだ。ベアード学院長も君になんとかアカデメイアに留まってもらえないか、と悩んでいたくらいだからね」

「自分は教育者の仕事を続けるつもりはありませんよ。これでも、目標が幾つもあるので」


 返答はわかりきっていた。彼には個人的な目的があるし、他にもっと高い目標もあるのだろう。それでも、惜しいと思ってしまう。この才覚のわずかでも後進の育成に注がれたなら、どれだけの優秀な学士が生まれることか。

「確かに君はまだ若い。今は自分の目標を見据えて突き進むのがいいかもね。他人の手助けをするのは、僕のように歳を取ってからでも遅くない」

「ムンディ教授もまだまだ御自分の研究に熱心なようですが……」

「ん? あはは、言われてみればそうかもしれない。君に教育者としての仕事を押し付けて、自分の研究目標に血道を上げているのだからね。僕が偉そうに言えることじゃなかった!」

 グリュンフィールにも言われたが、年老いてなお欲は尽きないものである。


「……おや、そういえばレリィ君は一緒じゃないのかい。彼女もこちらへ来るものとばかり思っていたが」

「レリィなら騎士協会の方に行っていますよ。たまには顔を出してこい、と俺が勧めました」

「一人で行かせて良かったのかね?」

「術士の俺が出しゃばるよりは、とりあえず飛び込ませて好きにやらせた方が騎士協会での受けはいいでしょう」

 何かと小言を言い含めては、保護者のように振る舞っていたので彼女とはそういう依存関係なのかとムンディは思っていたが、意外にも互いに自立した関係であったようだ。


「……さてクレストフ君、これからの予定だが……。審査が終わったら君はどうするね? 結果発表まで首都に留まる予定なんだろう?」

「学士達は好きに首都見学でもさせておきます。俺は一度、本拠地に戻って秘境探索の準備をするつもりでいますが、ムンディ教授もいらっしゃいますか? 実は秘境へ旅立つ前に見て頂きたいものもあるのです」

「学士達は見ておかないでいいのかな?」

「そちらはアリエルに任せましょう」

「……後でアリエル君に恨まれるやもしれないな」

「彼女も友人に土産を買うつもりでしょうから、別段、文句はないでしょう」

 学士達も子供というわけではない。何か問題が発生した時に連絡できる人間として、アリエルが一人いればどうにかなるだろう。


「じゃあ、僕もクレストフ君と行動を共にしようか。その見せたいものというのは、秘境に関係するものかな?」

「えぇ……。大いに関係しています。この旅の目的、そう言い換えても違いないものです」

 クレストフは珍しく沈鬱な様子で語る。彼がそこまで言うものとは、秘境に向かう前に是が非でも確認しなければならないようだった。

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