第112話 アカデメイア秘境調査隊
地底に広がる古代遺跡、そこは探究心の強い考古学士にとって、過去の歴史を探ることができる貴重な遺産である。
「教授~! テルミト教授ー! 発見です、大発見です!」
「そう大きな声を出さなくてもよく聞こえているよ。何か面白いものでも見つかったのかね? アルバ君」
若い学士を引き連れて古代の遺跡を訪れていたのは、世界最古にして最高峰と名高い学術機関『アカデメイア』から派遣された、テルミト教授が率いる秘境調査隊だった。
「た、大変なものを見つけてしまいました!」
慌てた様子で学士アルバがテルミト教授に差し出した物は、大きな巻貝のような物体だった。
「ふむ、この黄鉄色の鈍い光沢……海底火山に生息する『硫鉄貝』にも似ているが……」
「貝の表面を見てください! 見たこともない魔導回路が刻まれています。古代兵器かもしれません!」
「ほほお……これは……」
「これは?」
訳知り顔で顎を撫でるテルミト教授に、発見者の学士アルバが期待の眼差しを送る。
ひょっとしたら世紀の大発見なのではないか? そんな期待がアルバの表情に表れた。
「うむ、魔導開闢期の末期ごろ、人工的に造られた魔導生物の死骸のようだね。古代の遺跡では稀に見かけることのある種類だ。確かに、これは古代兵器と言ってもいいだろう」
「あぁ……そうなんですか……」
あっさりと既にある回答を聞かされて、がっかりするアルバ。新発見なら学会で発表するいい題材になったのだが。
「しかし、状態は悪くない。つい最近まで稼働していたようだが、誰かが壊してしまったようだね。まあ、古代兵器の一種だから、最初に見つけた人は問答無用で攻撃されたのかもしれない。壊さずに捕獲するのは難しかったろうね」
「どうします? これ?」
「魔導回路が邪魔して、送還術ではアカデメイアに送れないからねぇ……。持って帰ることも難しいし、この場で取れるデータだけ取っておくといい。珍しい物には違いないから」
「わかりました。記録だけ取っておきます」
心なしか興奮が冷めた様子の学士アルバは、半透明な棒状結晶の
録場機は周囲の音声と風景を三次元的に記録できる古代の記憶装置で、アカデメイアが復元に成功した遺物の一つである。
古代の魔導は高度で複雑だが、その仕組みを紐解くことができれば莫大な恩恵をもたらすことがある。
アカデメイアが太古より存続を続けてこられたのも、常に学術の最先端を行き、知識の集約と保存に力を入れ、大災厄の後も失われた魔導理論の復元にいち早く取り掛かってきた成果と言える。
それもこれも危険な秘境にまで探索に赴き調査を行う、学士達の努力があってこそだ。
思うような成果が出ないこともあるだろう。しかし、一喜一憂しながら世界の謎に挑んでいくのは、人生においてこれ以上ない刺激に満ちた冒険なのだ。
ちょっぴり煤けて見える学士アルバの背中を見ながら、テルミトは感慨深く物思いにふけっていた。
(ふむ……クレストフ君から便りが来たときは驚いたが、学士の頃の好奇心は変わらず失われていないようだ。これほど立派な古代遺跡を掘り出してしまうとは……)
かつての教え子であり、アカデメイアを卒業していったクレストフ・フォン・ベルヌウェレ。
とりわけ優秀な学士で、アカデメイアに残ることを勧めたのだが、クレストフは錬金術士として活躍の場を魔導技術連盟に絞り、学術の世界からは遠ざかってしまった。
当時は残念に思ったものだが、いまや彼は準一級術士となり、伝説の秘境『
――古代遺跡や太古の跡地も見られるので、ついでに宝石の丘まで行ってみませんか――
数ヶ月ほど前にそんな誘いがあって、冗談かと思って軽い気持ちで了承したら、ここ
幸いにもアカデメイアにおけるクレストフの信用度は高く、秘境探索の経験がある学士を何人か集めることができた。
まだ見ぬ秘境、宝石の丘。すぐにでも、集合の期日を待たずに向かいたくなったテルミトは、随分早くに底なしの洞窟に潜っていた。ところが、実際に道中で古代遺跡を目の当たりにしたら調査に夢中になってしまい、いつの間にか集合期日が間近に迫っていた。
(さすがにそろそろ先へ進まないと集合日時に遅れてしまうな。まだ太古の跡地で発掘もしていないし……。ふむ……ふむふむ……。よし、あと半日だけここで調査をしたら先に進むとしよう)
まだまだ好奇心のおさまらないテルミト教授は、数人の学士と共に古代遺跡の調査を続行するのだった。
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