第94話 旅路の決意
※関連ストーリー 『灰燼に帰す』参照
――――――――――
「次の事業、とはいったい――」
眉根を寄せて問い質してくる伯爵令嬢の言葉を、俺は手で制して遮った。
「あんたが俺に協力してくれると言うのなら答えよう。そうでなければ、俺達の付き合いもここまでだ」
立場上、迂闊に協力するとは言えないのか、伯爵令嬢は返答に窮する。
しばらく彼女の動きを待ったが、膠着状態が続きそうだと判断したところで俺は立ち上がり、部屋の隅で大人しく待っていたビーチェとジュエルを連れて扉へと向かう。
(……ここで即断できないのなら付き合う価値もない。後は、焦げ付いた不良債権と化すこの街で落ちぶれるがいいさ……)
「お待ちになって!」
俺の背中から、「付き合いもここまで」の雰囲気を感じ取ったか、伯爵令嬢は甲高い声で引き止めてきた。
無言で振り返る俺に彼女は苦々しい口調で言葉を吐き出した。
「ご協力しましょう……。貴方の事業で、私に手伝えることがあるのでしたら」
運のいい女だ。
いや、勘がいいのだろうか。
どちらにせよ、これで伯爵令嬢は破滅の道を免れた。
彼女がここで協力を約束しなければ、俺は鉱山の管理を放棄していたところだ。
そうなれば、抑制を失った絞殺菩提樹の樹海は街を呑み込み、洞窟の獣達は縄張りを自由に広げ始める。
そのとき、冒険者達は都市の防衛には動かない。金にならない、危険が大きいと判断すれば、彼らはすぐに街を離れてしまう。
結果、『自然災害』により洞窟攻略都市は壊滅して、積極的な誘致と投資活動をしてきたフェロー伯爵家は甚大な損失と信用の失墜を招くことになるだろう。
しかし、自ら進んで協力してくれると言うなら、俺も敢えて彼女を破滅させようとは思わない。
(……この令嬢が落ちぶれる姿は見てみたかったが……)
言質は既に取ったのだ。そう思えば自然と俺の口の端は吊り上がった。
「聞かせてくださいなクレストフ、貴方の要望を」
俺の偽りない笑みに、伯爵令嬢はやや青ざめた顔をしながらも気丈に振る舞い続けていた。
「三つ、手伝ってもらいたいことがある」
数の限られた要求。だが、それだけに要求の大きさを予感したか、伯爵令嬢は身構える。
「一つは、この娘の保護だ」
そう言って俺はビーチェの背中を押して、伯爵令嬢の前に立たせる。
前に出たビーチェは何のことだかわかっておらず、伯爵令嬢もまた自分が何を頼まれているのか理解できていない様子だった。
「俺が次の仕事に出ている間、この娘の身柄を預かってもらいたい」
ビーチェの背中が小さく震えた。少女は首だけを巡らせ、ゆっくりと後ろを振り返る。
金色の瞳は驚愕に見開かれ、唇はわななき何かを訴えようとしていた。だが、言葉は出てこない。
ビーチェが何か言うより早く、伯爵令嬢の方が反応した。
「んなっ!? 私に子供の世話を押し付けるなんて、いったいどういうつもりですの! ……そりゃあ、貴方の子供でしたら喜んで授かるところですけど……こ、この子供は拾ってきた孤児ではないの!」
「確かにどこの馬の骨とも知れん奴だが、引き取って損はないはずだ。こいつは魔眼持ちの上に、俺が色々と仕込んだからな。精霊と契約もしているから、ちょっとした精霊現象を操ることができる。身柄を預かっている間は、扱き使ってくれてもいい」
「いえ、そういう問題ではなくて……でもまあ、身元保証人になるくらいなら構いませんけど……」
実質、伯爵令嬢自身がビーチェの世話をすることはないだろう。もう一人でも生きていく術は身につけている。身元保証人になって、街で生活する際の後ろ盾になってもらえれば上々だ。
(問題は本人が納得して、大人しく待っているかということだな……)
ここに来るまでに説得しておくことも考えたが、先に話せば領主館に預けられることを恐れて姿を隠すかもしれなかった。
だからこそ、今ここで別れを告げる。
「ビーチェ、俺は、お前を地獄への道連れにはしない。これより先は、お互い別の道を歩むことになる」
突然のことに戸惑いの隠せないビーチェを正面から見据え、俺は伝えるべきことを伝える。
地獄の参道にはビーチェを連れて行かない。それは、あの送還の門を見たときから決めていたことだ。
ここから先は本当に地獄への旅路になる。
「や! 行く! 一緒に行く!」
まるっきり子供が駄々をこねるように、ビーチェは癇癪を起こした。
同行すると言ってきかないビーチェの頭に手を乗せて静かに諭す。
「何度も言わせるな。地獄の参道は俺でさえ命を落とす危険性がある場所だ。お前を連れて行くわけにはいかない」
ビーチェは涙目になって唇を噛み締め、全く納得のいっていない顔で俺を睨み返してきた。これはなかなか言う事を聞かせるのが難しそうである。
「次のお仕事は、それほどまでに危険なのですか……?」
睨み合う俺とビーチェの間へ遠慮がちに割って入りながら、伯爵令嬢は血の気の失せた顔で声を絞り出した。
「ああ、目的地へ辿り着くのにも最短で三年と予想している。往復の期間を考えれば長い旅になりそうだ」
ジュエルは初め徒歩で三十年と言っていたが、送還の門を使って最短の道を通れば大幅に時間短縮できるとわかった。ただしその道は、通常はジュエルのような人外しか通り抜けることができない危険な道だ。相当の準備をしていかなければ帰還はおろか、まず宝石の丘まで辿り着くことすら不可能だろう。
「片道で三年!? そんなに長く首都を離れられては困りますわ! 魔導技術連盟はどうなさるのです!?」
「これはあんたが望んでいた展開でもある。この仕事が終われば、俺は確実に一級術士へ昇格できるだろう。それだけの成果を得られる確信がある、今回の旅にはな。帰ってきたら連盟の運営にも力を入れてやるさ」
断言する俺に、伯爵令嬢は言葉もなく息を吐いた。
「一級術士に……そうですか。わかりました……そういうことでしたら」
一級術士となる確約に安心したのか、ようやく伯爵令嬢は落ち着きを取り戻した。
「……それで、こちらのお嬢さんのことはどうなさいますの? 私はよくとも本人にその気がなければ預かりようもないでしょう」
先程から頑なに付いて行くと言い張るビーチェは、石のように体を固めたままその場に突っ立っている。
「大人になれ、ビーチェ。どうあっても俺はお前を連れて行くつもりはない。これは決定事項だ」
「いや……絶対にいや……」
「はっきり言おうか。足手まといを連れて行くわけにはいかない。お前は付いて来られない」
「それでも、い――」
聞き分けのないビーチェを俺は抱き寄せて胸元に埋めた。少女の体が、身を任せるようにして体重を預けてくる。
「お前は、お前自身の生き方を見つけろ」
力の抜けたビーチェの首に腕を回し、上腕と前腕の筋肉でもって挟み込み瞬間的に圧迫する。
一瞬だけ体を強張らせた後、ビーチェはがくりと脱力して意識を失った。
「乱暴な抱擁ですこと……。この子も納得していなかったでしょうに」
呆れ果てたと言わんばかりに、伯爵令嬢は溜め息を吐きながら首を振った。
意識を失ったビーチェを椅子に座らせて、俺はしばらく泣き腫らした少女の寝顔を眺めていた。
買い与えたばかりの黒いボレロとフレアスカートが、この娘に残す形見になるかもしれない。
「逃げ出そうとするかもしれんが、鎖を使ってでも繋いでおいてくれ。旅から無事戻れたなら、引き取りに来る」
「何年か後に戻って来た時には、もう愛想を尽かされているかもしれませんわよ?」
「それはそれで構わない。あんたが愛着を持ったなら、養女にしてくれてもいい。ビーチェの将来にはどんな可能性だってある」
「……そうですわね。でも、この子の進むべき道は、この子自身が決めることだと思いますけど」
伯爵令嬢は非難の目で俺を見た。少女一人、説得し切れなかった俺がこの点で非難を受けるのは仕方あるまい。
結局のところ、俺自身も人一人の人生を抱え込むのは重たいのだ。
例え本人が自己責任で付いてくるのだとしても、極限状態に置かれたとき、果たしてビーチェを守りきることができるか、あるいは切り捨てることができるのか。その迷いはきっと、地獄の参道を生きて抜けるには重い足枷となる。
「ふぅ、一つ目のお願いがこの調子ですと、二つ目はもっと大変なお願いだったりするのかしら?」
俺が思考に耽っているのを見て、さらに言い難いことがあるのかと伯爵令嬢はこめかみに指を当てた。
「二つ目は、旅の後方支援に関する補助だ。今回の旅では、黒猫商会と物資補給の契約を交わすつもりだが、なにしろ長期戦になる。旅の途中で契約不履行にならないよう、定期的な監査を頼みたい。契約が履行されない場合は、他の調達先を用意することも含めて、な」
「長期間の後方支援ですか……。結構な労力のいる仕事ですわ……私に見返りがあるとよいのですけど」
「この仕事が終われば、あんたは俺の信頼を得ることができる。それがどれぐらい貴重なことか、価値を計ってみたらいい」
「計り知れないですわね。疑い深い貴方から信頼を得られるというのは」
それは打算なのか皮肉なのか、わかりにくい言い回しではあったが、伯爵令嬢は結局この頼みを了承した。
目に見える利益は何一つない。それでも決してこの女は裏切らないと確信できる。
なぜなら、裏切ることには不利益しかないからだ。
「最後にもう一つ、この街で求人広告を出してほしい」
「求人、ですか?」
「内容は後で文書にして渡す。それをこの街全体に報せてくれ」
「……人手を集めたいのですね。わかりました。それぐらいなら容易いことですわ」
こうして伯爵令嬢は俺の提示した三つの依頼に協力を約束した。
「それにしても不思議なものですね。貴方は私のことを嫌っているのかと思っていましたけれど。今はこうして仕事の契約を交わしている……」
「あんたには煮え湯を飲まされもしたが、その手腕と肝の太さは評価している。それに打算が働いている限りは信用できる相手だってこともな。対等な取引ができるのなら、仕事での関係は続けていきたい」
「仕事の関係、ですか……。本当に隙のない人ですこと」
俺は伯爵令嬢と必要な契約書類の確認を済ませると、隣の椅子で気絶しているビーチェの頭を一撫でしてから立ち上がる。
「くれぐれもビーチェのことは任せた」
「はあ……もう何も文句は申しませんから、お早く戻られてください。私も、この子も、待っていますから」
ビーチェとの別れを惜しむジュエルを引っ張り、俺は領主館を後にした。
あるいはもう二度と、ここへ戻ることはないかもしれないと思いながら。
洞窟攻略都市から離れ、俺は首都の魔導技術連盟を訪れていた。
しばらく姿を消していた準一級術士の俺が現れたことで、連盟本部は息苦しいほどの緊張感に包まれていた。
連盟内部の権力闘争に興味はないのだが、ここにいる連中にとって俺の存在はそこまで危惧するものなのだろうか。
様々な思惑を孕んだ視線に晒されながら、受付で一級術士『風来の才媛』との打ち合わせに来たことを告げる。
俺の行動でさらに本部内の空気が張り詰めた気もしたが、権力闘争に明け暮れる連中の動揺など知ったことではなかった。
(……どうせすぐに旅立つ身だ。連盟内部が荒れようと俺には関係あるまい)
周囲の反応には無関心に、本部の会議室へと向かって廊下を歩く俺の前へ一人の女術士が立ちはだかった。
敢えて周囲を無視していた俺は、そのまま歩みを止めず通り過ぎる。
「よう、クレストフの坊や。用事があるって聞いたから出向いてやったのに、無視とか舐めてやがんのか、こら」
乱暴な物言いに意識を引き戻され、俺は肩越しに声の主へと振り返った。
廊下で仁王立ちしていたのは、短髪赤毛で色黒の肌をした女性だった。緋色の龍鱗をあしらった軽装鎧に身を包み、一見して戦士かと思わせる引き締まった体つきをしている。
「なんだ、あんただったのか、『竜宮の魔女』」
「ああ!? なんだとはなんだ、てっめえ! 忙しい一級術士様を呼びつけておいて、それかよ!」
威圧的で重みのある声。そろそろ三十路になろうかという歳の魔女は、年齢不相応な姿と態度で下品にも中指を立てている。
ちなみに中指を立てるという仕草は「てめえ犯すぞ」という意味である。
「……用事……呼びつけた……? ……ああ、そういえば。あんたに頼みたい仕事があるんだった。『風来』との打ち合わせのついでに、な」
「一々、癇に障る野郎だな……。あの小娘のついでかよ」
「軽い冗談だ。気にしていると皺が増えるぞ」
「てめえ、マジで殺すぞ? ちっ、『深緑』を相手にする時には馬鹿丁寧な口調の癖によ、舐めてんだろ? あ?」
「あんたが以前に、馬鹿丁寧な口調はやめろって言ったんだろうが……忘れたのか?」
「そういやそうだった。悪ぃな」
皺のことを指摘されたことはさっぱりと忘れ、機嫌を直す竜宮の魔女。
「それで、仕事の話なんだが……」
「おう、お前があたしを頼るなんて珍しいよな。なんだ、ついに筆下ろしか」
「仕事の話だと言っているだろうが。というか、公共の廊下で下品な話はやめろ」
近くを通り過ぎた妙齢の女術士が、ちらちらと興味深げにこちらを見ていったのが本気で不快だ。
「あんたに頼みたいことなんて決まっている。竜を何匹か貸してもらいたい」
「竜を? どんな奴を、何に使うんだ? 一番階級の低い奴でも、高いぞ」
そう言いながら、親指と人差し指で丸を作って「金貨よこせ」の仕草を見せる。
「金はある。幾つかの条件に合った奴を見繕ってほしい」
「へ、聞いているぜ。近頃、景気が良いんだってな、クレストフ。金があるなら話を聞くのもやぶさかじゃあない。飛竜か? 海竜か? それとも、地竜か?」
『竜宮』は金をたかるゴロツキのように馴れ馴れしく肩に腕を回してきた。
俺の知る一級術士の中では、この女が一番扱いやすい。要は金だ。
「欲しい竜種は――」
そうして俺と『竜宮』は廊下で一つの商談をまとめた。
宝石の丘へ向かう準備、その一つが竜の調達だった。
『竜宮』との商談を終えて会議室へ向かうと、珍しく風来の才媛が先に待っていた。長い足を優雅に組みながら机の上に腰掛けている。
遅刻の常習犯が待ち合わせの時間に正しく来たことに関しては、別段これといった感想は思い浮かばなかった。
ただ、自信に満ちた豊かな胸と、傲岸不遜な態度に見える腕組みが俺の神経を苛立たせた。
(……でかい尻で机に腰掛けやがって。椅子があるのだからそちらに座ればいいものを……)
会議室に入ってすぐ俺が顔をしかめたのを見て、女は「おっと」とわざとらしい声を出して机から降り立った。
「やあ、クレストフ。とうとう、
「肯定したいところだが、正直まだ準備不足だ」
前置きも何もなく単刀直入に話は本題へ入り、俺もまた簡潔に受け答えをする。
この女とはいつもこんなやり取りになりがちだ。
それは別に悪いわけではなく、むしろ小気味よいのだが……どうしてかこの女と話していると会話の主導権を握られている気分になる。
だから今日は女が勝手に喋り始める前に、先手を打って俺の方から話を進めることにした。
「あんたの協力もあって同行者は幾らか集まったが、まだ人数に不安がある。腕の立つ人間を広く一般からも募ろうと思う。魔導技術連盟から正式な募集を出してもらいたい。宝石の丘へ同行を望む者を」
「それは構わないけれど。いいんだね? 宝石の丘の名を出せば、まず確実に応募者が殺到するよ」
確かに応募者は殺到するだろう。抜け駆けを考える者もいるかもしれない。しかし、少し頭を働かせれば宝石の丘へ至る道が険しいことくらい、このような募集を行うことから想像できるはずだ。それさえ考え至らない挑戦者に用はない。募るのは真の実力者だけだ。
「集合地点は永眠火山、底なしの洞窟の最下層、地獄の参道前。そこに秘境へ通じる送還の門がある。自力でそこまで辿り着ける人間のみ、宝石の丘への随行を許す。ただし、あらゆることが自己責任だ。一応、同行者への食糧配給など必要物資の補助は考えているが、それだけだ。命の保証はしない」
「……なるほど、その条件で募集を出すんだね。ちなみに報酬の設定はどうするんだい?」
「報酬は、山分けしきれない宝石の丘、そのものだ。見つけた宝を巡って醜い争いが起きるのは冒険譚だとありがちな話だが、俺達が目指す宝はそんな半端な代物じゃないからな。一人で抜け駆けをする意味もない。大人数で協力し合って進む方が確実だろう」
「ははっ、君らしい誘い文句だ。中途半端な金額を提示されるより、よほど興味をそそられるだろうね」
俺の考えに、女は心底から納得したように頷いた。
「俺はまたしばらく洞窟の底に篭って、魔導回路の製作に時間を費やす。同行者を待ちながら、宝石の丘へ向かう準備を整えるつもりだ」
「またあの洞窟に篭るのかい。そのまま宝石の丘へ向かうとすると、もうしばらく会うことはできないんだね。……わかった、後の手配は私に任せてもらおう」
「ついでに……連盟の方も、任せておいて大丈夫なんだろうな?」
この質問は意外だったのか、女は大きな目をぱちぱちと閉じ開きして応えた。
「そればかりは私に任されてもどうにもならないさ。君も知っての通り、連盟内部は相変わらず権力闘争に明け暮れているからね。君が宝石の丘から帰ってくる頃には、勢力図が様変わりしているかもしれんよ」
「戻ってくる頃には、このくだらない争いが終わっていることを願うとしよう……」
「あっはっはっ! 心配しても仕方ないだろう。君は立派に成果を出して、凱旋してくればいい。優秀な術士はいつだって優遇される。それだけのことだよ、クレストフ」
女は片目をつぶり、お姉さん気取りで糞ありがたい助言を俺にくれる。まったくもっていい加減で根拠のない、しかし信頼できる言葉だった。
「できる限り早く用事を済ませて戻ってくる」
「ああ、無事で戻っておいで。私は首都で待っているからね」
最後に、女はほんのわずか寂しげに微笑んで俺を見送った。
彼女の立場がもっと自由であれば、あるいは一緒に目指したかもしれない冒険の旅だ。
鬱陶しいことこの上ない旅路だろうが、きっと心強いに違いない。
だが、それは叶わぬ道。
俺は独りで行く、一匹の精霊と共に。
目的を共にする同行者はあれど、心許せる仲間はいない。
ふと、自分によく懐いていた少女を迎えに行きたい衝動に駆られたが、俺はその感情を殺した。
手元に置いておきたいと思うのは甘えだ。
自らが危険な状況にあるとき、本当に大切なものは遠く安全な場所に隠しておくべきである。
(……ここから向かう先は地獄なのだから。この判断は、きっと正しい……)
胸の内に燻る想いを踏み消して、俺は再び底なしの洞窟へと潜る。
宝石の丘、遥か秘境を目指す為に。
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