【ダンジョンレベル 2 : 獣の巣窟】

第9話 嫉妬の穴掘り


 毛むくじゃらな地の精霊ノームの協力を得られることになった俺は、早速、彼らの穴掘りの能力を見せてもらうことにした。


「それじゃあ、ひとまずはこの巣穴を拡張してもらえるか? どうせこの穴を基点に掘っていくつもりだったろうから」

「お手並み拝見だね~」

 俺の言葉を精霊ジュエルがノーム達に伝える。


 横一列に並んだノーム達が揃って頷き、彼らは早速、穴を掘る準備に入った。

 整列したところで俺が頭数をざっと数えてみるとノームは十匹程度いた。

 この程度の数でどれぐらいの仕事をこなすのか見物である。


 先頭のノームが短い両腕を前に突き出し、巣穴の土壁に触れる。

 すると土壁に細かい罅が入り、人間の頭くらいの量の土がぼろぼろと崩れ落ちる。

 細かくなった土砂は後ろに控えていたノーム達が、一抱えずつ持って、飛び跳ねながら巣穴の脇に積んでいく。


 抜群の連係動作で途切れることなく作業を続け、穴を広げていくノーム達。


「こいつは凄いな。どこぞの役立たずなクズ石の精霊とは比較にならない。なあ、そう思わないかジュエル?」

「むむむむ……」


 ノームの働きぶりを見て俺は素直に感嘆の声を上げた。

 見る見るうちに穴が拡張されていき、一時間ほどで最初の穴の倍ぐらいの大きさに拡張されていた。


「これだけの仕事を無償でやってくれるとは……うん、いや全く素晴らしい。宝石を喰うしか能のない精霊とは大違い……」

 ジュエルに皮肉をくれてやりながら、ふと隣を見て、俺はぎょっとした。

「ふっふっふっ~! ボクだってこのくらい、その気になれば……」


 対抗心でも燃やしたのか、息巻いたジュエルはたけのこのような円錐状をした大きな鋼鉄のきりを両手にたずさえていた。

 鋼鉄の錐は穿孔に適した形状をしており、ジュエルは器用にも手首から先を錐ごと回転させて、穴の土壁に向かって突き立てる。


 ごりごりと破砕音を鳴らしながら、まるで砂の城を突き崩すように岩の混じった硬い土壁を削り取っていく。

 びっくりしてノーム達が穴から飛び出してきた。


「ど~だ~! ボクにかかれば土壁はもちろん岩壁の掘削だってあっという間なんだから!」


 鋼鉄の錐をどうやって一瞬の内に用意して、何で手首から先が回転できるのか、俺には皆目見当もつかなかった。

 人間の魔導なら、物質や力場を呼び出す『物力召喚ぶつりきしょうかん』かと思うが、これはもしかして精霊特有の魔導現象なのではないか。


 目の前で起きている非常識な現象に俺が驚いている間にも、ジュエルはノーム達の数倍の速さで穴の大きさを拡張していく。崩れ落ちる土砂は律儀にノーム達が外へと運び出している。


(……確かに、この掘削速度は脅威だ。しかし……)


 俺は一抹の不安を抱いていた。

 掘削が進むにつれ、穴の壁が徐々に岩石質に変化してきていたのだ。

 そして、その不安を言葉にしてジュエルに注意するより先に、悲劇が起こった。


 岩壁を削っていた錐がやや岩石質になっている天井に接触した瞬間――ばしばしっ! と、大きな音と共に天井に亀裂が走り、砕けた岩と土砂が盛大に崩れ落ちる。

「きゃー!」

 穴の奥にいたジュエルは逃げる間もなく生き埋めになった。


 天井の岩盤が崩れ落ちた後、土砂の山からは、ジュエルの薄緑色をした小さいお尻と両足だけが生えていた。


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