第8話 均衡と循環

 ――地の精ノーム

 広く世界に分布し、固体に関わる自然力において圧倒的な占有率シェアを誇る精霊だ。

 一匹一匹は決して高位の精霊というわけでもないのだが、彼らはその数の多さから四大精霊の一つとされている。



 四大精霊は他に、

 液体をつかさどる精霊として水妖精ウンディーネ

 気体を司る精霊として風妖精シルフ

 電離体を司る精霊として火の精サラマンダーがいる。


 厳密に分類すれば、結晶を司る貴き石の精霊ジュエルスピリッツのように、各カテゴリに特化した精霊が無数に存在する。

 細分化すれば元素エレメントごとに分けられたり、空間や力場といった法則、意識や形状といった概念まで多岐にわたる。


 この中でも、四大精霊はとりわけ司るカテゴリが広く、精霊の存在数にしても圧倒的に多い。



 俗な迷信だが、四大精霊の気性は土・水・風・火の順番で穏やかなものから激しいものになるそうだ。

 それで言えばノームは穏やかな性質であり、扱いやすい精霊と考えられる。


(……まあ、ジュエルを見れば土や石に関する精霊が穏やか、と言うか大らかなのは納得できる。ノーム達にも必要以上に警戒する必要はなさそうだが、さて? 何の用があって俺の目の前に出てきたんだ?)


 ノームは数が多いと言っても精霊、幻想種の一種であることには違いない。

 そうそう人前に現れる存在ではない。

 性質の近い精霊ジュエルがいたから現れたのかもしれないが、当のジュエルが俺の客だと言っている。


「話は通じるのか?」

「言いたいことは何となくわかるかな、感覚で。ね?」

 ジュエルの声に何匹か隅で固まっていたノーム達が、もそもそと反応を返す。


「で、こいつらは俺に何の用があるんだ」

「お礼だって」

「何の?」

「穴から子鬼を追い出してくれたお礼」


 なるほど。この巣穴、子鬼のものかと思っていたが、ノームが掘ったものだったのか。


(しかし、物質的なものに縛られない幻想種が巣穴にこだわるというのは……)

 そこまで考えてジュエルの姿が目につく。……何事にも例外はある。いや、むしろ石や土の精霊は他の精霊に比べて、物質的な縛りが強いのかもしれない。深く考えるのはやめにした。


「それで、礼というのは? まさか『ありがとうございました』と言う為だけに出てきたのか?」

 この辺り、物欲にまみれた人間の思考だが、礼と言うからには何か他にあるだろうと普通は思う。


「お礼としてね、ボクらの鉱山開発を手伝ってくれるって。ノームも、穴掘りしてこの岩山を耕したいと思っていたみたいだから、指示すればボクらの希望通り穴堀りするって」

 これは思いがけない助力だった。ジュエルが掘削にどの程度の役に立つのか未知数であった為、掘削は俺の術式を駆使して進めねばなるまいと覚悟を決めていたのだ。掘るだけの単純作業でもノームに任せればかなりの手間が省ける。


「掘削を手伝ってもらえるのは助かるな。……にしても、ノームはどうしてこの岩山を耕したいと思っているんだ?」

「え? えーとね、うんうん……」

 ジュエルがノームと話し込み、もそりもそりと揺れ動くノームの声?に耳を傾けている。


均衡バランスを求めているんだって」

「均衡……か」

「その為に循環も必要なんだって」

「循環……?」

 わかるような、わからないような。精霊の行動原理などそんなものなのかもしれない。


「まあ、何かよくわからんがノームにも打算があるようだし、利害関係は一致しているな……。それなら協力を拒む理由はない。契約は必要か?」

「特にいらないみたい。お互い気軽に利益供与ギブ・アンド・テイクだって」

「含んでいる意味が少し違うような気もするが……まあいい。よろしくな」


 しゃがみこんでノームに改めて挨拶すると、彼らは喜んでいるのか毛むくじゃらの小さな体で辺りを跳ね回る。


 こうして、俺達とノームの共同作業が始まるのだった。

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