第4話 貴き石の精霊

 ――思い出すだけでも腹立たしい。


 何かの巣穴の中で、痛めた拳をさすりながら俺は、毛布に包まって眠りにつこうとしていた。


 だが、隣で気持ち良さそうに寝入っている精霊の顔を眺めていては、いつまで経っても怒りは収まらず、寝付くことができそうになかった。



 俺は貴き石の精霊、通称ジュエルを契約精霊としたわけだが、宝石の丘へ旅立つにしても資金と人手がいる。ほぼ全財産を食われてしまった俺は、それなりの資金を新たに稼ぐ必要があった。


 借金で宝石の丘に行く資金を賄うことも考えたが、資金を持ち逃げする危険を考えたら、遠出する目的だと貸してもらうのは難しいだろうと判断した。そもそも借りられたとして、長旅から帰ってきたときには莫大な利子を取られることが予想できるのだから、この案は却下だ。


 結局、下げたくもない頭を気に食わない相手に下げ、自宅兼工房を担保に借金をして鉱山を一つ買い取った。

 精霊ジュエルの力を駆使して鉱山開発することで儲けを得る計画となったのだ。


 そうして新たに稼いだ資金で宝石の丘へ向かう。

 最善で最短の道と考えて提案したのはジュエルである。かなり、俗世に馴染んだ精霊だ。伊達に長く生きていない。


 推定年齢は二〇〇〇歳とのこと。この世界に魔導の概念が誕生した魔導開闢期まどうかいびゃくき(そう呼ばれるのは五百年ほどの期間になる)の末期頃に生まれたらしい。


 それでも、意地汚い性格だけは二千年の間にも変わることなく、一時は暴食が過ぎて『魂の監獄』という幻想種を閉じ込めておく牢獄に入っていたこともあるらしい。


(……前科があったのかよ。誰がどうしてこいつを外に出したんだ?)

 何かの巣穴の中で、無垢な少女の表情をして眠りにつく精霊を見やりながら、俺は固い土の上で寝返りをうった。


 ジュエルは高位精霊だ。本来なら術士として契約できた事を誇りに思うべきなのだろうが、俺にはこの先の未来に大きな不安しか抱けなかった。

 

 唯一、宝石の丘への希望だけは強く残して……。


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