余裕綽々 新入生大会!!
魔法の感覚––。
それはとても奇妙だ。
表現するならば、自分の腕の中が空洞になっていて、そこを水が流れ落ち、手から溢れ出すような。
水の強さは人それぞれだ。だが、キアンで言えばそれは、激流である。恐ろしい程の水圧で、今にも腕が肩からもげて吹っ飛びそうなのである。
だが今回吹っ飛ばしたいのは目の前のクソガキことニール君である。
全く、クラス分けで分かる通り自分は格下のくせに、なんだってコイツは余裕綽々といった風にニタニタしながら学年二位のキアン挑むのだろう。
それを考えるには、クラス分けの方法を知る必要がある。
まず、クラスは魔力量というので分けられているわけであるが、この魔力量というのは、体に貯められる魔力の量と魔力回復率の二つで決まってくる。
魔力量というと、一般的に貯められる魔力の量というイメージが多いが、それは最大瞬間出力と言い、使える魔法の限界規模を表す値である。このため、魔法発現の時点で出来、不出来がほぼ完璧に決まると言っても過言ではない。
次に魔力回復率であるが、これは一秒あたりの回復出来る魔力の値である。この値が高い人は、最大瞬間出力が低くとも小さい魔法なら永遠に出し続けることも出来る。
そんな訳で、実戦に於いて重視されるのはどちらかといえばこちらの値だったりする。
それで、だ。どうやらこの面倒くさい男は回復率は評価Cだが最大瞬間出力だけは評価Aらしい。
「え、SとかSSじゃないの?」
いやそれどこのライトノベルだよ。
ほら、これってあくまでも現実世界じゃないすか。体力測定の結果にそんなの無かったでしょ??
「魔法とか出た時点でこれって別の世界なんじゃ…」
ええい黙りたまえ!
現実にSSSランクとかあってたまるかってんだ。大体誰だ貴様!
まあそれはさておき、
コロッセオ、渦巻くような歓声の中心にキアンは立っていた。
依然ニヤニヤ顔を貼り付けたまま、否一層気持ち悪い顔を浮かべるニールと対照的に、キアンは表情一つ変えない。台風の中心は晴れて無風だとでも言うのだろうか。
グッと握り込んではパッと開く。そしてそれを繰り返す……感覚を手繰るように…見えざるものを掴もうとするように……。
「今日こそ気に入らねえお前の鼻っ柱へし折ってやんよ!!!」
「……。」
残念ながらキアンにはクソガキの喚き声など一切聞こえていない。
言葉など、脳を通さなけりゃ只のノイズだ。それを知っていれば、集中状態など簡単に作れる。
もっとも、知識としてではなく本能による反射に近い形で体に覚えさせる必要があるため、習得するには多大な時間と労力を必要とするのだが。
「スタァァァァト!!!!」
刹那ニールの背後に現れるは円盤状の紋章。その数幾百はあろう、覆い立つ様津波の如く、その中心でニールはニヤリと笑う。
「ヘヘッ、消えろ!!!」
ダサい掛け声と共に中心から放たれた無数の雷槍。
––しかし、その時ニールは意外な光景を目にした。
矛先にキアンがいないではないか。
ドォォォォォォン!!!!
上がる粉塵は会場を満たす。
観客の咳き込む声、ブーイング。
使ったのは最大瞬間出力ギリギリの無属性魔法だ。
この一発で仕留めるはずだったのに!
次に魔法を使うにはどうしたってインターバルが必要だ。
粉塵で見えない今のうちに!
「ぐぇっ…」
静寂の中、大きな音がした。
何かが倒れたような……。
徐々に粉塵が落ち着いた頃、舞台に立っていたのは………キアンだった。
「「「「「ウオォォォォォォォォォォォ!!!!!」」」」」
こだまする歓声の下、キアンはひっそりとため息をつく。
バカな話である。
遅いのだ、攻撃が。しかもその上自分で視界を奪うとは。
このコロッセオは学校が所有している中でもかなり古く、脆い。その上普段使わないので埃が積もっている。そりゃあんな威力の魔法を放てば砂塵で何にも見えなくなるに決まっている。
キアンは、ただ放つ瞬間高速移動で背後に回って魔力空っぽなうちに一発ぶち込んだだけである。
避けられることを考えもせず一発で終わらせるなんて考えたのがニールの敗因だった。
「流石だな、キアン。」
その試合を見ながらリアンは一人ホッと息をつくのだった。
BROTHERs 〜正反対な双子の学園無双譚〜 正木修二 @plmqazzM1
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