津波系少女

窓際の机から時折視線を投げかける先は、愛しの弟キアンである。

––今日も感情の読めないあの顔がカッコいい…。なんなんだろう、本当に俺ら双子かな?同じ顔でもなんでキアンはこんなに神々しいの?!

教えてくれよマイエンジェル!!!


……残念なことこの上無い。側から見れば恋煩いする美少年である。

その様に男子ですらうっとりし、女子に至っては口を手で覆いながら叫んでいる。


だが忘れてはならぬ。今は授業中だ。

「リアン、聞いてんのかー?」

今回、新入生大会の運営を担当するエドガーの声でリアンは現実に引き戻された。

「あっ、すいませんでした!

明日の新入生大会の説明ですよね!

入場の隊形は男女別で二列で、トーナメント戦なので僕達にはシード権が与えられる、辺りまでは聞いてました。」

「え、怖っ、全部聞いてんじゃん……。聖徳太子かよ……。」

「エドガー先生、いないから。その人別の世界の偉人だから。」

「聖徳太子、略してショタ……。」

「何言ってんのディアン?!」

眠そうな赤眼が不思議そうに瞬く。ディアン・ウォーカーは天然であった。

そして幼い頃から彼のツッコミを担当するのはアドレイ・バートン。金髪に碧眼の少年である。


「で?組み合わせはいつ分かるんすか。」

「ああ、今から張り出す。」

「おー!楽しみだ!」

身を乗り出す生徒たちに、エドガーはニヤリと笑った。

「これが組み合わせ表だ!!」




「勝てる気がしない……。」

項垂れるリアンにリリィがため息をつく。

「もう、なんでいつもリアンはそんなに弱気なの?そう言っていっつも一位とってるじゃない!」

「あれは全部まぐれだよ……。」

全く、いつもどうしてこう自信が無いのだろうこの男は。これでは今までに彼に負けた者たちが浮かばれない。


「そんなことないです!」

「ん、君は……。」

突然声がしたと思えば、長い亜麻色の髪をした少女が話しかけてきた。

「ごめんなさい、会話の途中に入ってしまって。

私、セレナ・マキシアです!この前のピアノコンクールや剣術の大会、私も出ていたんです。なので、リアンさんがどれだけ凄いのか知ってますよ!」

「え?!君も出ていたの?」

驚くリアン。緑の瞳をキラッと輝かせたと思えば、

「ええ、でも今は私のことなんてどうでもいいんです!貴方ですよ!」

「へ?!」


セレナは、突然スーッと大きく深呼吸した。すると次の瞬間怒涛のスピードで

「貴方は天才です!孔子の如く何もかもを完璧にこなしその上あの大体かつ全く新しい正に革命とも言えるような美しく圧巻のパフォーマンス!出る大会全てに於いて誰も寄せ付けぬ勢いで優勝を勝ち取っていくその風格は百獣の王ライオンですよ!いやもはやドラゴンですね!」

「語彙力の、津波っ……。」

「ピアノの時もそうでしたがヴァイオリンは特に凄かったです!なんですかあれ魔法で洗脳でもしたんですか?音からしてまず違うんですよ!干ばつが何年も続いた後の恵の雨の一滴目って言うんでしょうか?この大地に染み渡り何もかもを優しく包み込み癒していくようなそんな音色でした!

剣術大会の時なんてもう剣がしゅばばばばばってなってドーン!でした!と思ったらクルっとしてカキンッてしてトンってしてダーンてしましたよね!!」

「いきなり語彙力の津波が引いていったわね……。」

真夏の海の如く明るく、何かしら波のある少女セレナ・マキシアであった。

「あ、ありがと……。俺頑張るよ。」


––そういえば、キアンはどうなるんだろう。昨日のこともあるし心配だな……。

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