9 王位継承戦開戦前

 道路のアスファルトを踏んでいた足の感触が次第に土へと変わり斜面が付いた頃、景色も大分様変わりし、ビルや家屋が多かった街並みから木々が生い茂った林道の中へと進み続けていると、日差しも枝や大きな葉などで隠れる様になったのを目視で確認した俺は不意にリアの顔を見る。最初こそは遠足かの様に楽しい笑みを浮かべていたが、いつしかその笑顔が消え、今にも不安で押しつぶされそうでいた。

「辛いなら帰って学校に行っても良いんだぞ?」

「――え?」

 俺の言葉に俯き気味だったリアが顔を上げ少し驚いた様子で俺を見ると、頬を膨らませ不機嫌になる。どうやら先ほどの言葉が悪いみたいだ。リアは、もう知らんと言わんばかりに俺と顔を合わせようとしなくなる。

「リア?」

「――永宮くん、リアさんの言いたい気持ち私にも分かりますよ」

 俺がリアの態度に困惑していると静かに黙っていた芽依がそう言い出す。心配で来てくれた彼女達には、悪いと思うが。俺自身の負け姿やボロボロになっていく姿を見られたくないと言うのが本当の気持ちなのだ。それが好きな女の子の前なら尚更のことだ。しかし芽依は、女の子の気持ちから話し始めた。

「きっと、この先には永宮くんが辛い思いを沢山するんですよね……、私もですが、好きな男の子が自分の知らない間にボロボロになって帰ってくるのが堪らないくらい辛いんです。好きな人と少しでも多くの事を共有したい。それじゃ、駄目ですか?」

 芽依の言葉を聞き俺は、再びリアの方へと向く。すると、リアは口を少し尖らせながらチラと俺の方へと目線を向ける。

 ――好きな人と少しでも多くの事を共有したい。

 先の芽依の言葉を聞いた俺は、何故かそれをリアが言っている風に脳内で書き換えていた。すると、少し恥ずかしくなり頬を赤くする。だが、リアは少し思い込んだ表情で話し始める。

「芽依ちゃんの言うとおりだけど、私やっぱりこのまま引き下がれないよ。真一をここまでにした自分への戒めにしっかり見させて」

「だから、剣星の力を得たのはお前のせいじゃ――」

「――私のせいじゃ無きゃ、誰のせいなの!!」

 俺の言葉を遮るようにリアが大声で怒鳴り上げる。

 すると、近くに居た鳥たちが彼女の声に驚き一斉に飛び立つ。バタバタと彼らの翼を羽ばたかせている音が俺たちを包み込む。やはり、リアは剣星のことを良く思っていなかった。俺の人生を滅茶苦茶にしたと後悔しているのだ。

 そんなことを考えていると、リアが再び声を張り上げる。

「真一は、優しいから……私のせいにはしないけど、こうなったのは、私のせいだよ。私が真一と会わなければ、真一は、苦しまずに済んだよ!!」

「――リア」

 リアがここまで苦しんでいたなんて。俺は、大粒の涙を浮かべる。彼女を見ると何も言えなかった。

 ――彼女を幸せにしたい。

 その想いの結晶であるこの力が、幸せにしたい対象であるリアの心を苦しめていたなんて……。そう落ち込んでいた時だった。何かが高速で飛翔しているのを感じ取る。

「――リアッ!!」

 俺は、そう叫ぶとコクゲンを手にリアの前に立つ。すると、もの凄い速度で一つの短剣がリアに迫っていた。俺は、コクゲンを振り下ろしてそれを叩き落とす。キンと言う金属同士の高い音が響くと地面に落ちた短剣を見ると、それは昨晩の戦闘でマラリアが使っていたのと同じ物だった。

 まさか、向こうから攻めてくるとは。そう思いながらと後ろにいるリアに声を掛ける。

「大丈夫か?」

「私は、大丈夫」

「芽依、危ないから近くに来てくれ」

 俺の言葉に芽依は反応しなかった。辺りを見回すと芽依の姿はどこにもなかったのだ。先ほどの奇襲で使ってきたのは、短剣一本。奴の狙いが次第に見えてくると俺は、少し腹を立てていた。

「クソ、やられた」

「真一、芽依ちゃんが……」

「分かっている、兎に角先に進もう奇襲してきたと言う事は、近くに奴がいるはずだ。」

 俺は、そう言うとコクゲンをしまい振り返るとリアの手をしっかりと握る。

「俺から離れないで」

 彼女に言うと俺は、ゆっくりと前へと進み始めた。芽依を巻き込んだマラリアに対する怒りのせいで、リアが顔を赤くしていることに気が付かないまま林の奥へと進む。










 ◇◇◇

「ここは?」

 永宮真一がリアをかばい迫り来る短剣をコクゲンで叩き落とす。そこまでは、意識があるがそこから先は、何も覚えていなく、見知らぬ場所で気が付いた芦沢芽依は、そんな言葉を溢すと、辺りを見る。すると、自分の手足が動かない事に慌てて周りを見る。

「何これ!?」

 芽依の手足は、十字架にかけられ無理矢理動かそうとすると、鎖があたり痛くなると芽依は、魔法を行使しようとする。呼吸を整えて体内に流れる魔力を高める。

「カッター!!」

 高めた魔力を三日月状に生成して脳内で自由に操作できる基本魔法カッターを発動しようとした瞬間だった。

『魔力感知、遮断する』

「キャアァァァァァァァ」

 機械が話すみたいな声と共に流れる強力が電流を浴びながら芽依の高めた魔力は、根こそぎ十字架に吸い取られてしまう。不意になくなった魔力と十字架から流れた強力が電流のせいで、芽依は強い脱力感に襲われ、若干過呼吸になる。

「――駄目だよ、嬢ちゃん。それは、魔力を吸い取る為に作られた十字架。つまり君の天敵さ」

「貴方は?」

 芽依は、乱れた呼吸を整えようとしながら木陰から出てきた白髪の長い髪が特徴的な男に問う。すると男は、ゆっくりと芽依に近づくとその口を開いた。

「私は、剣王三世マラリア」

「剣王?」

「そう、全ての剣が私の力で動く。剣王は、星が認めた唯一の人間がなれる者だ」

「じゃあ、剣星は?」

 芽依は、剣王に次々と質問する。しかし、拒むどころか剣王マラリアは、彼女の質問に紳士に答えていく。

「剣星は、星に認められた人間が使える異能さ。私も彼も剣星の使い手だが……私は、それを極めて王となった」

「王になる方法は?」

「至って簡単さ、先代の王を倒す……それだけの事さ」

 言葉が出なかった。マラリアの言葉が真実なら真一は、これからこの人を殺さないといけない……。

「おや?どうしたんだい?黙り込んで」

「いえ、貴方があまりにも楽しそうなので」

「そうだね、これは剣王にとっての儀式だからね」

「儀式?」

 またしても彼の言葉に芽依が引っかかる。しかし、剣王マラリアは、ゆっくりと口角を上げると少し間を置いてから再び話し始めた。

「これは、言わば王位継承戦さ。剣王としての力を思う存分使えるのだからこれほど楽しいことはない」

「それって、永宮くんを殺すつもり?」

「――勘が良いね。そうさ、俺は彼を殺す」

 彼の発した威圧感に怯えてここら辺に住むありとあらゆる生命達が一斉に逃げ出す。芽依もここから逃げ出したいと少し思うと剣王について少し考え始めた。けど、ここには真一は来て欲しくない。

 こんな殺し合いの場に来てしまった永宮真一は、きっといつか後悔してしまう。

 人を殺して手に入れた力に意味なんてあるのだろうか。

 そしていつか、真一から力を奪おうとして新たな剣星が誕生する。そう言った殺し殺されのリレーを続けて何の意味があるのだろうか。

 その答えは自問自答しても出てはこなかった……。


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魔法世界にたった一人の剣使い ミヤイリガイ @ryusei120525

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